RS FANTASY

りくそらたのファンタジー小説おきば。
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LOVE PHANTOM第1章   運命の扉-19-
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LOVE PAHNTOM第1章 運命の扉-19-

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ジェイはいつまでも海の向こうを見つめていた。


アイシェはエドがちゃんと、村まで送り届けてくれるだろう。
腕っ節はそれほど強くはないが、責任感の強い男だ。
それに少々腕が弱くても、彼女の術があれば大丈夫だろう。
村までの帰路はいくつかの街を経由しながらの街道なので、安全だ。
「エドのヤツ、尻にしかれてないといいけど…」
その様子を思い浮かべて、ジェイはクスリと笑った。

たった五日。
共に過ごしただけだったが、アイシェには随分と振り回されたような気がする。
くるくる変わる愛らしい表情が懐かしい。
「今、別れたばかりなのに。俺って女々しいヤツ…」
ジェイはバツが悪そうに、ガッと頭を掻いた。

本当はアイシェを一緒に連れて行きたかった。
さらってでも自分の側に置きたかった。
でも、危険な場所に飛び込むことがわかっているのに連れては行けない。
彼女はこんな裏の世界にいる人間ではない。
本来なら危険とは無関係な、自然に守られた陽の当たる場所にいるべき人間だ。
自分の都合で振り回わしたくはない。
もう二度と、大事なものを傷つけたくない。目の前でそれを失うのはまっぴらごめんだ。





「アイシェが俺の運命を変える───か」


セイラの言葉が本当なら、もう一度アイシェに会えるかもしれない。
その時は───。





ジェイは強く拳を握りしめた。








「いつまで海をながめてんだ」
突然、背後から声を掛けられた。
ビクリと体を縮めてゆっくりと後ろを振り返る。
いつから立っていたのだろう。
体格のいい男が腕を組んだ姿勢で、ジェイを見下ろしていた。
酒場で男達をなだめたジルという男だ。
「あの嬢ちゃんはさっきの港で降りたのか?」
そう言ってジェイの横に来ると、手すりに背中を預けた。
「てっきりお前さんの女かと思ってたが…」
違ったんだな、と笑う。
「あんたには関係ないだろ?」
「そりゃそうだ」
棘のある言い方に気を悪くする風でもなく、ジルは懐から煙管を出し火をつけた。
「吸うか?」
「いや、いい」
そうか?と、煙管をくわえると空に向かってゆっくりと煙を吐き出した。
風に流されて煙はすぐに空に溶けてしまう。


「お前さん、何かわけありか?」
「…」
「いつも思いつめた険しい顔をしていただろう。あれは覚悟を決めた男の顔だ」
淡々と話しながら、煙を空に吐いていく。
「…おっさん。あんたは一体、何者だ?」
酒場での事といい、今といい。必要以上に構ってくる。
それにあの時見た、右腕の刺青。
あれを昔どこかで見たことがある。
記憶が確かであれば、あれは────。

「わしか? わしは…まぁ、そこいらにいる船乗りってやつだ」
「船乗り?」
確かに、日に焼けた健康的な肌と、筋肉剥き出しの鍛え抜かれた風体は、船乗りのニュアンスを漂わせている。
ただ、船乗りにしては生傷が多すぎる。
体のいたるところに、数々の古傷が見られる。
「この船の、か?」
「いいや。もっとでっかい船だ」
遠くを見つめるような顔で、空に煙を吐き出す。
それはすぐに風にかき消されて消える。
「ま、オレの経験上、大事なものは側から決して離すなってことだ。離してしまったら見失ってしまう。そうなったら二度と手元には戻らないぜ?」
「何の事を言ってんだよ」
ジェイは眉をしかめた。
「それは自分で考えな。わしはそこまで優しくねーよ」
「何だよ、それ」
「ただ、あの嬢ちゃんといる時は、お前さんの険しい顔が和らいでたから。お前さんにとって、大事な存在なんだろうな、と思っただけだ」
「……」
「図星か?」
「…あいつは、そんなんじゃねーよ」
「そうか? 少なくともわしにはそう見えたが。ま、いいさ。大事なものは失くしてから気づくものだ。手遅れになる前に気づけよ?」
「…そういうあんたはどうなんだよ?」
「わしか? わしは、もうとっくに失くしてしまったよ」
そう言ってジルは、じゃぁなと手を振りながら船内へと踵を返す。
「あ、それと」
大きな体が振り返った。
「北に着いたら、赤い目の男に気をつけろ」
「何だよ、それ。」
「言葉どおりだよ。じゃあな」
そう言ってジルは手を上げ、振り返ることなく船内へと消えていった。







船は七日ほど航海を続け、北の果てに到着した。
七日の間ずっと穏やかだった天候も、陸地に着いてからは陰りを見せた。
ぽつりぽつりと雨が落ちる。

「さて、どうするかな」
ジェイは店の軒先で雨がやむのをやり過ごしながら、今後の身の振り方を考える。
目的はセイラの仇を討つことだ。
以前ジェイにアサシンへの勧誘をしてきた男の言葉を頼りに、ここまで来たのだ。



─── 気が変わったら、大陸の最北端の島へ行け。 ───


大陸の最北端はここだ。だが、この先にマリという島がある。
きっと拠点はそこだ。
わかっていても、不用意に乗り込むのは危険すぎる。
まずは手がかりになるものを探さなければならない。


雨は一向にやむ気配を見せず、このまま本降りになりそうな気配だ。
「まいったな」
軒先から手をかざす。
掌に雨が容赦なく降りつける。
これから先のことを考えると贅沢はしてられない。
船を降りてからしばらくは、野宿だと考えていたのだ。
この雨だとその場所も限られる。

「しゃーねーな」
ジェイは舌打ちすると、荷物を頭にかざし雨の中を走りぬけようとした。
その時だった。





「…ッ!?」
ジェイはその場に立ち竦む。
頭に荷物を持ち上げたままの姿勢で動けなくなってしまったのだ。
いつの間にか背後に回ったであろう人物に、背後を取られた。
背中にヒヤリと刃物のを突きつけられる気配を感じた。



(────いつの間に!)

身を堅くする。
背後に回るまで全く気配を感じなかった。
そこに人がいることさえ気付かなかった。
人としての気配が全くなかったのだ。

「…さて、このまま動かないでくださいね? 自分がどういう状況かは、お分かりでしょう」
低いしゃがれた男の声がした。
「このまま真っ直ぐ、船着場の方へ戻ってもらいましょうか」
男は刃物をグッとジェイの背に突きつけたまま言った。
ジェイは男が言うまま、無言で船着場へ足を進める。
逃げようにも体がまるで凍りついたように動かない。





(何だ、こいつのラグナは───)

ゴクリと喉が鳴った。
身体の底から震えがくる。
かつて今まで感じた事のないような巨大なラグナの力に、ジェイはなすすべもなく、ただ言いなりになるしかできない。
背後に回るまでは全く気配がなかったというのに。
相手は自由自在に力を調整できるらしい。
そうだとすれば、今のラグナが全開とも限らない。




(末恐ろしいぜ…)

小さく舌を鳴らす。


しばらくして船着場に着いた。
男の言うままに道を進むと、人の目から死角になるようなところに小船が見えた。
覆面をした男がひとり乗っている。
腕には見覚えのある刺青が見えた。

────十字架に巻きつく2匹の蛇。

「あんたらアサシンか…」
チッと舌を打ち鳴らす。
「必要のないおしゃべりは無用です。そのまま、その船に乗っていただきましょうか?」
男はグッと背に刃物を突きつけた。
「何で俺が、アンタらのいいなりにならなきゃいけねーんだよ?」
「あなたに意見する権限などありませんが?」
「……」
「あなたは賢い人だ。どちらが有利でどちらが不利か、力の差というものをお分かりでしょう?」
そう言うと、男はドンとジェイの背中を押し船に押し込んだ。
「アンタ、何者だ?」
「答える必要はありません」
男が目配せをすると、船に乗っていたもうひとりの男が懐から頑丈そうなロープを取り出した。
「船の上で暴れられたらかないませんからね、おとなしくしていてもらいますよ」
「何でオレが、アンタらのいいなりにならなきゃいけねーんだよ」
ジェイは苛立ちを隠せない表情で吐き捨てるように呟いた。
「力の差なんて、やってみなきゃわかんねーだろっ!」
後手にされた手で背中を弄る。
固い感触が指に触れた。
いざという時の護身用にと、隠していた短刀だ。
ふたりぐらいなら何とかなりそうだ。
いざとなれば逃げればいい。
こいつは危険な匂いがする。
船に押し込まれれば最後だ。

「…ここで使うのはかまいませんが…。そうするとあなたは、大事なものを失う事になる」
「大事なもの?」
なんだよそれ。
ジェイは男の言葉に眉を寄せた。
「俺にはもう、大事なものなんてねぇよ!」
身内もいない。
守るべき家も家族もない。
たったひとり身内のように大事にしていたセイラは先日、殺された。
自分には何も残っていない。



「そうですか───。では、彼女はどうなってもかまわないのですね?」
「───彼女? なんの……ことだ…」

一瞬、数日前に別れた愛くるしい少女の顔が脳裏を掠めた。
まさか、と思う。
心臓がドクリと音を立て、そのまま鼓動を加速させる。

「亜麻色の髪の村娘。翡翠色のガラス玉のような瞳がとても印象的で、可愛らしい娘でしたね」
「!!」
「名前は確か、アイシェ───でしたか?」
フードの陰になって見えない顔の表情に、薄っすら笑みが浮んだように見えた。
瞳が不気味に赤く光った。
「村に帰る途中だったようですが、残念だ」
「て、めぇーーーーー!!!」
ジェイは我を忘れて男に飛び掛った。
胸ぐらを掴んで殴りかかったつもりだった。



「────っぐッ!!」

一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
気がついたら全身に激痛が走り、体が地面に叩きつけられていた。
「……っぅ!!」
ジェイは体を庇うように立ち上がろうとした。
「ぐあっ…!!」
その手を男が足で踏みつける。
「───言ったでしょう? 力の差というものを理解しているか、と」
男はジェイを冷ややかに見下ろした。
おそらくフードの下は、馬鹿にしたように見下した表情だ。
「安心しなさい。娘は殺しはしませんよ」
男はギリギリとジェイの腕を踏みつける。
体を動かそうにも、予想以上にダメージを受けた体と、腕を強く踏みつけられているせいで、動くことすらままならない。
「あの娘。上のものがたいそうお気に入りでしてね。殺しはしないでしょう。ただ、可愛らしい娘さんだ。貞操の保障まではいたしかねますが───ね?」
「…貴、様っ!」
ジェイは物凄い形相で男を睨みつける。
はらわたが煮えくり返るというのは、こういう事をいうのだろう。
怒りのあまりに、骨が砕けそうなほど拳を握りしめた。

セイラの命を奪っただけでは済まさず、アイシェまでも。
村に着く前だと言っていたから、エドが一緒の時にさらったのだ。
エドは無事なのだろうか───。
このままこの男に逆らっても、今の状況では全く勝ち目がない。
勝てる気がしない。
それよりはおとなしくアジトに連れられて、そこから体制を立て直す方が賢いかもしれない。
アジトを探す手間が省けたと思えばいい。

「……俺がそこへ行けば、アイシェは返してくれるんだろうな?」
「返答しだいですね」
男はそう言うと、ジェイから足をのけてそのまま体を引き上げた。
「じゃあ、行きましょうか?」
そう言ってジェイを船に乗せると、ゆっくり海へ向けて動き出した。


雨は一層降り続き、この日は決してやむことがなかった。




>>To Be Continued
| LOVE PHANTOM 第1章 | 12:41 | comments(2) | - |
LOVE PHANTOM第1章   運命の扉-18-
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LOVE PAHNTOM第1章 運命の扉-18-

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こうしてアイシェとエドは街道を通り、トロイの街を抜け、風の渓谷を経由してシュラの村への帰路を取った。
ジェイと違って控えめで気遣い屋のエドは、アイシェの様子を伺いながら休憩を取りつつ、ゆっくりと足を進めてくれる。
嫌味なことは言わない、基本的におっとりした性格だった。
そんな安心した旅を続けながらも、時折ジェイの事が脳裏をよぎる。
ジェイにありがとうもごめんなさいも言えないまま、別れてしまった。
言葉では言い表せないほど、感謝していたのに。
アサシンのアジトから助けてくれたのも、船でここまで連れてきてくれたのもジェイだ。
ジェイがいなかったら今頃、遠い異国の地に売られていたかもしれない。
送って行ってくれると言っていたので、てっきり村までは一緒だと安心していたのだ。
村に着いてからお礼をすればいい。
祖父や村人に元気な顔を見せた後、ジェイに着いて行きたい。
ジェイと一緒に世界を見てみたい。
そう思っていたのに。


「…ジェイの、バカ…」
小さく呟く。
「アイシェ?」
「あ…、ううん。何でもないの」
エドに心配かけないように、アイシェは慌てて笑みを作ってみせた。
「ねぇ、エドガーさん」
「エドでいいよ」
「…じゃぁ、エドさん。いつ、ジェイに頼まれたの? 私を村まで送って行くって…」
「ああ。君たちが船に乗る前…だったかな? ジェイが通信用の鳥を飛ばしてきてね、ちょうど僕はこっちに来ていたから、戻るついでにアイシェを村まで送って行くことになったんだ」
「それじゃぁ…」
最初からジェイはトロイでエドに託して、自分はそのまま北へ向かうつもりだったのだ。
「ジェイはどこへ向かったの?」
「たぶんノースエンドを経由して、島へ渡るつもりじゃないかな」
「ノースエンド?」
聞いたことない名前に首をかしげる。
「気になる?」
「そんなんじゃないけど…」
アイシェはバツが悪そうに下を向いた。
もともと普段のジェイを知っているわけではない。
トレジャーハンターという仕事上、北へ向かうのかもしれない。
でも、アジトも北にあると言っていた。
ジェイが北へ向かう理由がそこにあるとしか思えない。
ひとりで乗り込んで、勝算があるのだろうか。
ラスラの下っ端でさえ、かなりの腕をもつ者ばかりだったのに。
ジェイと別れてから、胸騒ぎがずっと、鳴り止まない。


「やっぱり君は、ジェイの事が気になってしょうがないみたいだね」
エドがクスリと笑った。
「そんなんじゃ、ないってば」
慌てて首を振って否定する。
エドの口ぶりは、どうもジェイとの関係を勘違いしているようだ。
「ま、向こうもまんざらでもなさそうだったけど?」
「何それ…」
「最後まで君の事を気にかけていたからね。あまり他人に執着しないジェイがさ」
「………」
「無茶なこと、してないといいけど」
エドが空を仰ぎながら苦笑した。

ふと。
エドの袖口からのぞく腕のあざに目が止まる。
ひどく赤く爛れた跡。
「エドさん…それ…」
「ああ、これ? ちょっと火傷をしてね」
困ったように肩をすくめながら腕を隠した。
「これでも随分良くなった方なんだけど…あまりきれいなものじゃないから、見ないほうがいいよ」
そう言って苦笑する。
「見せて」
「え?」
「私、治癒術が使えるの」
「君が?」
驚いたようにアイシェを振り返った。
半信半疑な目でまじまじと見つめる。
「少しだけど…。だから…」
「まいったなぁ…」
「え?」
「だって君のような女の子でも使えるのに、僕は全然」
肩をすくめながら、エドが両手を上げた。
「知ってた? 術が使えるのは、神に認められ、愛された人間だけなんだって」
「…神に認められ、愛された…?」
「何かの書物で読んだんだ。世界でもまれな、特別な人間。でも…、同じ神の祝福を受けておきながら、彼女は無残な死に方をしてしまったようだけど」
ドクリと胸が鳴った。



「…彼女って……?」

「―――セイラ。君も一緒にいたんじゃないの?」

忘れたくても忘れられるはずがないその名前に、動悸が早くなる。
思い出すだけで、息が苦しい。
エドは悔しそうに目を伏せた。
「セイラよりも、君やジェイの方が神に愛されていたのかな。神々はより強いものを愛すっていうからね。もっとも僕は術が使えないから、あまり神に愛されていないのかもしれないけど」
「…エドさん……」
「冗談だよ。別に困らせるつもりで言ったんじゃないんだ」
そう言ってエドは笑う。

「そんなに気になるのなら、ジェイを追うかい?」
その言葉にアイシェは弾かれたように顔を上げた。
「でも…」
祖父ガランや村の人たちが心配しているはずだ。
それをそのままにして、追うことはできない。
「じゃぁ、こうしようか? 村を経由してから、陸路を取って北へ向かう。行き先は分かってるから、多少時間の遅れはあるけど、たぶん合流できると思う」
「ほんと?」
「でも、遅れをあまり広げない為に君にも頑張って歩いてもらわないといけなくなるけど。休憩もあまり取れないし、村にも長く滞在できないよ?」
「うん。それでもいいわ」
「そっか。それなら決まりだね」
そう言ってエドは笑う。
「だけど。どうしてそこまでしてジェイを追いかけたいんだい?」
「それは…」
仇を取りたい―――だなんて、口に出して言えなかった。
それはあくまで、自己満足でしかないのかもしれない。




「まあ、深くは聞かないよ」
何かを察したのか、エドはそれ以上聞いては来なかった。
「…ありがとう」
「お礼なんていらないよ。僕自身も、やりたいことをやるんだから」
「え?」
「セイラの仇だよ」
「!!」
「ジェイの行き先はひとつだ。あいつの性格上、このままにしておくことはできないはずから。
僕だって許せない! その為に利用できるものは、何だって利用してやる」
エドは唇を噛み締め、強く拳を握りしめる。
さっきまでの優しい温和な雰囲気とは似ても似つかない表情だ。
全身から怒りを感じられる。
「君は術が使えるんだよね。協力してくれるだろ?」
「エドさん…」
アイシェは強くうなづいた。
「これから長くて過酷な旅になるかもしれないけど、覚悟はできてる?」
「うん」
「じゃあ、行こうか」
そう言ってエドはアイシェを連れて歩き出した。





>>To Be Continued
| LOVE PHANTOM 第1章 | 18:48 | comments(0) | - |
LOVE PHANTOM第1章   運命の扉-17-
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LOVE PAHNTOM第1章 運命の扉-17-

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四日目の午後、船は大陸の北東に位置するトロイの港へ着いた。
荷物をまとめ、アイシェを連れて船を降りた。
「ここから陸路でトロイの街を経由して、風の渓谷へ向かう」
「トロイ?」
聞きなれない名前に、アイシェが顔を上げた。
「小さな港街だよ。そこを経由して、少し旅に必要なものを補給してから向かおうと思う」
「まだしばらくかかるの?」
「村が恋しくなったのか? それならちょうどいい」
ジェイが苦笑混じりに覗き込んだ。
ついて来るとしつこかったアイシェは、どうも諦めたらしい。
村の近くまで来ると恋しくなったのだろう。
まだ十台の娘だ、無理もない。
村に返してやるのがアイシェにとって一番いい。
別れを思うと少し残念に感じながらも、行く末を考えるとホッと胸をなで下ろすしかなかった。

「―――ジェイ!!」
呼ぶ声がした。
振りかえると船の向こうにいた小柄な男が手を上げた。
「誰?」
アイシェが目を細める。
見覚えのない男がニコニコしながら、小走りにこっちにやってくるのが見えた。
「オレのダチ」
「ダチ?」
「そ。エド、こっちだ!」
そう言って大きく手を上げる。

「無事、着いてよかった。航海はどうだった?」
エドと呼ばれた男は、ジェイに親しそうに声を掛けた。
小柄で人の良さそうな好青年なエドは、ジェイと同じぐらいの年か少し幼く見える。
赤茶けた髪が、日に当たってますます鮮やかに輝いた。
「この子が?」
「ああ、アイシェだ」
「可愛い名前だね。僕はエドガー。エドって呼んでくれていいよ」
よろしく、と手を差し出す。
「初めての船旅ははどうだった? ジェイと一緒なら、楽しめただろ? こいつ、知識だけは豊富だから困らないはずだ」
アイシェは苦笑する。
楽しくなかったといえば嘘になるが、いろいろあった。
「どうしたんだい?」
アイシェの微妙な表情に、ジェイはくくっと笑いをこらえる。
「君は大陸の西の方の出身なんだって? あっちの人って、もっと日に焼けて浅黒い肌の色をしてたと思ったんだけど…」
エドがまじまじとアイシェを見つめた。
そんなに見つめられると緊張してしまう。
「でもアイシェは全然黒くないよね。西部出身とは思えないほど、白く綺麗な肌してる。可愛いし……ジェイが好みのタイ───」
「エド!」
言葉を遮るように、ジェイはエドの首に腕を回して後ろを向いた。
「なんだよ、ジェイ。僕、何か悪い事言ったか?」
「…余計なこと言うな!」
舌打ち混じりにエドにだけ聞こえるような小さな声で耳打ちした。
「何? ふたりだけで…」
アイシェは不思議そうに首をかしげた。


「ここからだと、村までどれぐらいかかるの?」
アイシェが尋ねた。
「うーーん。僕らだけだと二日程で着くけど、アイシェがいるから三〜四日はかかるかな。早く村に帰りたい?」
「…う、ん…」
帰りたくないわけではないけれど、その後ジェイは────。
そう思うと素直に頷けない。
「それならすぐにでも出発しようか? それとも少し休んでからにするかい?」
「すぐでいいよ」
「そっか。じゃあ行こうか」
そう言ってエドはこっちだよ、と歩き出す。
「船を出すぞーーー!!」
出港の掛け声が港いっぱいに響いた。
「ジェイ?」
立ち止まって船を振り返るジェイに、アイシェが声を掛けた。


「────じゃエド、後は頼んだぞ」
「ああ。そっちも気をつけて」
エドが分かった風な顔で、ひらひらと手を振る。
「…何? どういうこと?」
アイシェが何かを察して、ガバッとエドの袖にしがみついた。
見上げた翡翠の瞳が不安に揺れる。
「ジェイはこのまま北に行く船で、航海を続けるそうだよ。代わりに僕が君を村まで送って────アイシェ!?」
話もそこそこにアイシェは走り出した。





(────どうして!?)

ジェイが船へ入ろうとするのが見えた。
最後の乗客を確認して、船への架け橋が取り除かれる。
「ジェイっ!!」
ありったけの大きな声で名前を呼んだ。
「ジェイっ!!」
その声に気づいてジェイが振り返った。
「どうして…っ、どうして行っちゃうの…っ!?」
泣き出しそうな表情でジェイの腕を掴んで引き戻す。
「急いで北へ行かなきゃならねーんだ。後の事はエドに頼んであるから。オレじゃなくても大丈夫だろ?」
優しく微笑みかけて、わしゃわしゃっと乱暴にアイシェの頭を撫でた。
「でもっ…!」
「兄ちゃんら、船が出るから危ないぜ! 下がって下がって!」
「俺、その船乗るんだ」
「それなら早くしてくれ。もう出発だ」
「ああ」
「ジェイっ!!」
必死でジェイの腕を掴んだ。
この手を離せば、この人は行ってしまう。


ぐっと。
その腕が掴まれジェイの方に引き寄せられた。
トン、と頬に唇が触れる。
「────ジェ…!」
弾かれたように身体を突っぱねて、真っ赤でアイシェが頬に手を当てた。
「旅の路銀代わりにもらっておくよ」
「路銀、って…あ…!!」
次の瞬間、ほとんどしまりかけた船の桟橋にジェイは勢いよく飛び移った。
「ジェイ…っ!!」

ボーーーーーッ!!
船の汽笛が港いっぱいに響く。
「じゃあな、アイシェ。…頑張れよ!」
そういい残して、ジェイを乗せた船は港を離れていく。
ジェイのように船に飛び移るなど、アイシェには到底無理だ。
「ジェイ…っ!!!」
声が風に消え行く雲のように、船の汽笛にかき消される。


「…何が路銀よ…っ、ジェイの、バカ……っ」
アイシェは唇を強く噛締めて、船が見えなくなるまでずっと見送った。
涙が、止まらなかった。


「…そろそろ行こうか?」
船が見えなくなっても、いつまでも海を見つめるアイシェに、エドがそっと声を掛けた。
「陽が落ちる前に、街道を抜けた方がいい。夜は魔物がうろついて危険だから。それとも今晩この港で休んで、明日の朝出発するかい?」
「…ううん。行くわ。ありがとう」
アイシェはそう言って涙を拭いて、立ち上がった。




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| LOVE PHANTOM 第1章 | 09:53 | comments(2) | - |
LOVE PHANTOM第1章   運命の扉-16-
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LOVE PAHNTOM第1章 運命の扉-16-

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朝からとても天気がよかった。
空は抜けるような快晴で、甲板に出ると日差しを照り返す海の蒼が眩しく、ジェイは目を細めた。
ひとりで遅めの朝食を取り、もう朝食はジェイで最後だという食堂のおばさんに頼み込んで、別に一人分の朝食を受け取り部屋に戻る。
アイシェはまだ寝ているようだった。
薄いカーテンの向こうから、規則正しい寝息が聞こえてくる。

昨晩はずいぶん遅かった。
眠っているのを起こしてしまうのは可哀相だ。
ジェイはそっとカーテンを開け枕元にある小さなサイドテーブルに持って帰った朝食を置いた。
そして枕元にメモを置く。
これで目を覚ました時、アイシェが不安がって探したりはしないだろう。
ふとアイシェに目をやると気持ちよさそうに寝息をたてながら、心地よい眠りについていた。



(こんな状況で、よく熟睡できるな…)

見知らぬ男と同じ部屋で、ぐっすりと眠るアイシェは、よほど自分を信用しているらしい。
アイシェの頭をそっと撫でてやる。
頬にかかった長い髪を指で払ってやると、アイシェが「う…ん」と寝返りをうった。
いつまでもその愛らしい寝顔を見ていたい気もしたが、起すと可哀想なので目を覚ますまで外へ出ている事にした。




ジェイは再び甲板へ出ると、船尾に置いてあった樽の上に腰を降ろした。
船尾は波飛沫を上げて、船が通った後を白く残す。
明日の午後には港に着く予定だ。

ジェイはぼんやりと海を見つめた。
昨晩はずいぶんと酒を飲んだ。
もともと何かを忘れたくて飲んでいたのだから、酔いが回っても仕方がない。
アイシェが現れたのは予定外だった。
酒が抜けてなかったといえ、つい口に出てしまった弱音はあまりにも格好が悪い。
まるで母親にすがる小さな子どもだ。
アイシェの胸は温かく柔らかで、とてもいい匂いがした。
母親とはこんな感じなのだろうか。
ふと、そんな風に感じた。
ジェイには物心がつく前から母親がいなかった。
父親に育てられたが、その父も早くに他界した。
優しく全てを包み込んでくれるような暖かさ。
それはもう、随分昔に忘れていたものだった。
アイシェも両親を幼い頃に亡くしていると聞いた。
それでも祖母や村の人々に大事に育てられてきたのだろう。
彼女からはその温かさがにじみ出ていた。
アイシェの胸の中は、自分に安心感と安らぎを与えてくれた。
こんな穏やかな気持ちは、久しぶりだった。


「…つうか、アイシェって、意外に……」
そう言いかけて、ジェイは口元を手で覆う。
女の体の柔らかさも、繋がる気持ちよさも、ジェイはよく知ってる。
5つも年下だからって、軽く見ていた。
あんなあどけない顔をしていても、アイシェは女だ。
見た目が華奢すぎて分かりにくかったけれど、見えない部分に隠された豊かな胸の膨らみは反則だ。
幼さとのギャップが激しすぎる。
「やべ…オレ、変な想像しちまった……」
雑念を払うように頭を何度もかきむしった。
けれど、あの時の柔らかさが何度も思い起こされて消えてはくれない。
アイシェの事をそういう目で、見たくはないのに。
男の性は正直だ。



「おはよ、ジェイ」
突然降ってきた声に、ジェイは驚いて座っていた樽から転げ落ちそうになった。
声のした方にじわりと顔を向けると、きょとんとした表情でアイシェが立っていた。
昨日のことなんて覚えてないかのように、屈託ない顔でアイシェがにこりと笑う。
「…どうしたの?」
まじまじと見つめてくるだけで、返事をしようとしないジェイを不思議そうな顔でアイシェが覗き込んだ。
目が合うとにこりと笑う。



(…無自覚だから、ヤバイんだ。こいつは。
ていうか、誰にでもああいうことをやるのか?)




ジェイは妙に胸がざわざわする気持ちを覚えた。






>>To Be Continued

| LOVE PHANTOM 第1章 | 19:58 | comments(0) | - |
LOVE PHANTOM第1章   運命の扉-15-
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LOVE PAHNTOM第1章 運命の扉-15-

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次の朝、目が覚めると、カーテンの向こうにジェイの姿はなかった。
「…ジェイ?」
ゆっくりと体を起しながら遠慮がちに呼んでみたが、返事はない。
サイドテーブルに視線をやると、手紙が置いてあるのが目に入った。



『昨日はごめん。
朝食の時間が終わっちまうから、置いておく。オレはその辺を散歩してくるから、アイシェはゆっくり寝ててよし』


手紙の横には黒糖パンと山羊のチーズ、山羊のミルクの簡単な朝食が置かれてあった。
ふと、壁に掛けてある時計を見上げるともう昼前だ。
随分と朝寝坊してしまったらしい。
まだ何となく気だるい体を起し、顔を洗って簡単な身支度を済ませると、ジェイが用意してくれていたパンを口にほおばった。
焼いてから随分たっていて少し堅くはなってはいたが、香ばしくておいしかった。
ゆっくりとパンをほおばりながら、アイシェはぼんやりと昨日の事を思い出した。
あんな弱弱しいジェイをはじめて見た。
セイラの事で悲しくないはずなんてないのに、それを決して表に出さず、平然を装っていたジェイ。
ずっと強い人だ、と思っていたので正直驚いた。
そして少しホッとしたのだ。
そういう弱い一面があることを知って、安心したのだ。
だからそんなジェイを見て、放っておけない気持ちになって、気がついたら抱きしめてしまった。
自分でも、びっくりした。


「…私、何であんな事しちゃったんだろう」
恥ずかしさのあまり顔を覆う。
大胆で突拍子もない行動を思い出すと、顔から火が出そうだ。
「合わせる顔がないよ…」

小さい頃から淋しい時や泣きたい時は、いつも祖父ガランが優しく抱きしめてくれた。
早くに両親を亡くしたアイシェは、両親のいる友達をうらやましく思う時もあったが、寂しくはなかった。
厳しくはあるが温かく優しい祖父に育てられ、寂しい時は抱きしめてくれ、嬉しい時は共に喜んでくれる。
村人達もアイシェを娘のように温かく見守ってくれた。
何一つ、寂しい思いはしなかった。
だからジェイが寂しそうにしていた時、思わず抱きしめてしまった。
祖父がいつもそうしてくれたように。


「でも、あんな子どもにするみたいなこと…」
小さい子どもにするならともかく、ジェイは立派な大人の男だ。
聞けば五つも年上だというではないか。
あんな子どもじみた行動をどう思っただろう。
恥ずかしくて合わせる顔がない。
もしかして昨日の事に呆れて、朝早くに出て行ってしまったのではないだろうか。
今度は顔が青くなる。

とにかくジェイを探そう。
もし機嫌を損ねているようなら謝ろう。
アイシェは残ったパンを急いで口にほおばった。



>>To Be Continued


| LOVE PHANTOM 第1章 | 19:52 | comments(0) | - |
LOVE PHANTOM第1章   運命の扉-14-
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LOVE PAHNTOM第1章 運命の扉-14-

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ジェイはアイシェの腕を離さないように強く握り、自室へと連れて帰った。
ドアを閉め、ようやくアイシェの手を離す。
「ジェイ?」
心なしかジェイは不機嫌だ。
「ジェ…」
「何であんなところに来たんだ?」
言葉を遮られる。
落ち着いた口調ではあるものの、明らかに怒っている。
「だって…起きたらジェイがいなくて…」
アイシェは申し訳なさそうに目を伏せた。
「酒場は男の集まるところだ。陸の酒場ならまだしも、海の酒場に若い女がひとりで出入りするなんて危険すぎる。それぐらいわかるだろ?」
「でも…」
「これ以上、世話を焼かせないでくれ」
ジェイはため息混じりに呟くと、部屋の隅にある小さな木の椅子にドカッと腰を降ろした。
その言葉にアイシェは小さくごめんなさいと呟いた。
自分のせいで、ジェイに迷惑をかけているのは分かっている。
見ず知らずの自分を助けてくれたばかりか、村まで送ってくれているのだ。
これ以上世話を焼かすなと言いたくなるジェイの気持ちもわかる。
未知の地で、アイシェにとって頼れるのはジェイだけだった。
まだ会って間もない人間をどうしてここまで信用できるのかと言われれば答えに困るけれど、今はジェイを頼るしか方法が思いつかない。
ここでジェイに見捨てられでもしたら、途方に暮れてしまう。
ジェイといるとなぜだか安心した。
その分、姿が見えなくなると不安になってしまうのだ。
攫われたあの時のように、底知れぬ不安と恐怖がアイシェを襲うのだった。
思わずアイシェの瞳から涙がこぼれた。






小さく肩を震わせて涙ぐんでいるアイシェを見て、ジェイはため息をついた。
少し言い過ぎた。
年を聞けば17そこそこだという。
自分とは5つも違うじゃないか。
成人もまだな幼い少女に―――。

男達に囲まれて戸惑うアイシェを見つけたとき、何ともいえぬ気持ちになった。
カッと頭に血が上ったのだ。
何でこんなところに、と。
そして何よりアイシェに群がる男達に腹がたった。
非力で幼い少女相手に何人も。
酒が入っていたということもあってか、無性にイライラした。
その時上った血がまだ下がってない。
そのイライラを発散させることなく、そのままアイシェにぶつけてしまった。
アイシェは目を覚ました時に、自分の姿がなく不安だったのだろう。
真夜中に、ましてやあんな事件の後にひとりにされれば、誰だって不安になる。
今のアイシェが頼れるのは自分だけだというのに。
そもそもこんな事になってしまったのは、眠ってしまえば大丈夫だろうという浅はかな判断からだ。
夜中に目が覚めることも予測して、最初から飲みに行くことを話しておけばこんな事にはならなかったものを。
今回もセイラの件も、自分のせいで危険な目に合わせた。
自分さえ、もう少ししっかりしていれば。
そう思うと余計に腹立たしい。




「ごめん」
ジェイは頭を下げた。
「オレが悪かったのに、アイシェに当たるなんて」
どうかしてた。こんな小さな少女に。
「もう嫌だったんだ、自分の目の前で誰かがどうにかなるのを見るなんて」
その言葉にアイシェがゆっくりと顔を上げた。
男に囲まれたアイシェを見た時に一気に醒めた酔いが、今頃になって回ってきたのだろうか。
頭がガンガンする。
普段なら絶対吐かないような弱音が、口から滑るように出てしまう。
「オレ、かっこわりーよな」
椅子に腰かけたままでうなだれるように頭を落とした。
「…ジェイ…」
「さっきの話はもう、気にしないでくれ。
さ、寝ようぜ。もう断りなしで、どこにも行かないから安心し―――」
フッと自分の足元に影が落ちて、アイシェの小さな足が見えた。
顔を上げようとした瞬間、小さな身体に不意に抱きしめられた。
「…!?」
見上げたジェイの頭を柔らかくアイシェの腕が包む。
まるで母親が小さな子どもを抱きしめるかのように、アイシェはジェイを抱きしめた。






「―――アイシェ…?」

驚いて上げた顔に、アイシェが頬を摺り寄せる。
「お前、なにやって―――」
「ジェイが……泣きそうな顔、してたから……」
「オレが…? ……馬鹿か。泣くかよ」

アイシェの言葉に、思わず苦笑する。


「だって…。ずっと我慢してたんでしょう? ジェイ、セイラさんが亡くなってから、一度も泣いてないから……」
そう言ってなおも強く、アイシェはその胸にジェイを抱きしめる。
柔肌に顔が沈んで苦しいぐらいだ。
「泣いてもいいのに…泣けば、いいのに……」
自分の代わりに泣いているような声がした。
その声に思わず、胸の奥が詰まる。
「オレは、大丈夫だから……」
大丈夫だと言っているのに、アイシェは抱きしめたまま離そうとしない。
それどころか自分の頬をジェイの頭に寄せ、まるで子どもをなだめる母親のようにそっと頭をなでていく。
何度も何度も、優しく穏やかに。
寄せた胸から聞こえてくる波打つ鼓動は、アイシェのものだろうか。
それとも自分の―――。






(…まいったな…)

ジェイはアイシェの胸に抱かれながら、ぼんやりと考えた。
こんなにも心地いいのは、久しぶりだ。
(まあ、いいか。たまにはこういうのも悪くない)
心から安堵できるような柔らかさとぬくもりを全身に感じながら。
「サンキュー」
ジェイはそっと呟いた。





>>To Be Continued



| LOVE PHANTOM 第1章 | 19:42 | - | - |
LOVE PHANTOM第1章   運命の扉-13-
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LOVE PAHNTOM第1章 運命の扉-13-

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男達がいなくなると酒場はいつもの雰囲気を取り戻し、人々は何事もなかったかのように飲み始めた。
刺青の男はもとの席に着くと、何本目かわからない煙草に火をつけた。
白い煙が宙に浮んだ。


「何で助けてくれたんだ」
ジェイが男に聞いた。
あの状況でまさか、助け舟を出す人間がいるなんて思いもしなかった。
ギャラリーは面倒なことにかかわりたくないといった風な者か、野次馬根性で興味津々といった者ばかりだった。
あの状況では無理もない。
助け舟を出すなど、よほど腕に自信がないと自殺行為だ。
「…助けたつもりはないんだが…大勢で寄ってたかってっていうのが、わしは好きじゃないんでな。たんなるおやじの気まぐれだ」
そう言って男は手酌でグラスに酒を注ぐと、うまそうに飲み干した。
「…アンタ、その右腕の刺青…」
「あん? これか?」
どうだ、立派だろ?と自慢げに右腕を撫でると、ニヤリと口の端に白い歯を覗かせた。
色黒の肌のせいで、口元から覗く歯がいっそう白く見える。
「これがどうかしたか?」
「いや…」
ジェイは少し考える仕草を見せたがそれを口に出さず、
「行くぞ、アイシェ」
アイシェの背中を押して酒場の外へと促した。
「でも…」
「何だ?」
ジェイは不機嫌そうに眉を寄せると、立ち止まったアイシェを振り返った。
「お礼」
「礼?」
「うん。…あの、助けてれてありがとうございました」
そう言って男に深々と頭を下げた。
刺青の男は一瞬目を丸くしたが、
「なぁに、いいってことよ。もうひとりでこんなところに来るなよ」
そう言って白い歯を覗かせた。
笑うと少し目が垂れる優しい笑顔が見えた。
「行くぞ」
「あ、うん」
アイシェは刺青の男に小さく頭を下げると、ジェイに手を引かれながら酒場を後にした。





>>To Be Continued




| LOVE PHANTOM 第1章 | 19:32 | comments(0) | - |
LOVE PHANTOM第1章   運命の扉-12-
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LOVE PAHNTOM第1章 運命の扉-12-

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男達がじわじわと詰め寄ってくる。
このままでは思うつぼだ。
アイシェだけでもここから逃がしてやりたいが、自分の側から離す方が危険だ。
逃がしてもすぐに捕まってしまうだろう。
皆、酒が入っていて気が立っている。
乱闘騒ぎになるのは免れないのか───。
ジェイはアイシェの小さな肩を抱きながら、男達の出方を待った。




「その辺にしておけや」


ドスの利いた低い声が部屋に響いた。
突然降ってきた声に、皆の動きが一瞬止まる。
「何だてめぇ…」
リーダー格の男が眉を寄せて声の主を振り返った。
酒場の一番奥の席に、騒ぎに臆することもなくひとりの男が酒を飲んでいた。
テーブルに置かれた灰皿の上には無数の煙草の吸殻が山積みにされていて、何本目か分からない煙草に火をつけたところだった。
「いい大人がよってたかって。情けねぇな」
男は吸っていた煙草を口から離しため息混じりに煙を吐くと、低い声でそう言った。
「何だと!?」
その言葉に男達が声を荒上げる。
「どうやらてめーも、やられたいみてーだなぁ?」
男は胸の前で手を組み合わせ、ポキポキと指を鳴らすと奥の席の男を睨みつけた。
「俺たちにたてついた事を後悔するんだな」
男は見下すような視線でそう言うと、近くにいた数人の男達に声を掛けた。
「お前らはそっちの男をやれ! 女も逃がすんじゃねーぞ!!」
その言葉に気のそれていた男達の意識が、ジェイとアイシェに再び集中した。
「チッ」
騒ぎに応じてアイシェだけでも安全なところへ逃がせないだろうかと、思考をめぐらせていたジェイの考えが中断される。
男達の視線が一気にこちらに集中する。
最悪、ラグナは使える。
けれど、こんな狭い空間でラグナを使えばどういうことのなるのかぐらいは、容易想像できた。
簡単に使うわけにはいかない。
「…ジェイ」
アイシェがぎゅっと服を握った。






「やめろといってるのが、わからねぇのかっ!?」


ドンッ!とテーブルを叩く音と共に、ドスの効いた声が響いた。
その声に、船内が波を打ったように静まりかえる。
「ガツガツしやがってみっともねぇ!女は陸に上がってからにしろってんだ!!」
そう言って奥のテーブルに座っていた男が立ち上がった。
派手な音がして椅子がその場に倒れ、その瞬間、肩から掛けていた上着がパサリと床に落ちた。

日に焼けた浅黒い肌に、鍛えた筋肉。
ボサボサの髪に無精ひげをのばし、見た目は浮浪者のような身なりだが、髪の間から覗く黒とも藍とも取れる深い色の瞳は力強く鋭い。
肩口まで捲り上げられた袖口から覗く右腕に、立派な鷹の刺青が見えた。
それは今にも男の肩口から飛び立ちそうなほどリアルで、見事なものだった。


「お…おい、アイツ! あの刺青は…」
ひとりの男が声を上げ、リーダーの男に耳打ちをした。
「何!?」
その瞬間、男の顔色が変わった。
ざわりと動揺の波紋が辺りに広がっていく。
「…何…?」
アイシェが不安そうにジェイを見上げた。
ジェイは目を丸くして刺青の男をじっと見据える。
ボス格の男は舐るように刺青の男を見やるとチッと舌を鳴らした。
「今日のところはこの辺にしておいてやるよ!!命拾いしたなっ。
おい、行くぞ!!」
そう吐き捨てるように言い放つと、荒々しく扉を開けその場を立ち去った。
他の男達も頭になるものがいなくなると、尻尾を巻くようにその場から逃げるように消えていった。

その様子をジェイの背に隠れながらアイシェはぽかんと見送った。




>>To Be Continued


| LOVE PHANTOM 第1章 | 19:20 | comments(0) | - |
LOVE PHANTOM第1章  運命の扉-11-
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LOVE PAHNTOM第1章 運命の扉-11-

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やけに入り口の方が騒がしい。
何やらはやし立てる声と口笛が響く。
男達がギャンブルでも始めたのだろうか。
ジェイはさも興味なさそうに、今夜何杯目になるかわからない麦酒をあおった。
酒が体に染み渡り、心地良さを誘う。
「マスター、酒」
カラになったグラスをカウンター越しの男に差し出した。
「兄ちゃん大丈夫か? 今ので、何杯目だ? そろそろやめておいた方がいいんじゃないのか?」
「いや、今夜は飲みたい気分なんだ」
ジェイは催促するようにグラスを振った。
そんな様子に肩をすくめると、男はグラスにまたなみなみと麦酒を注ぐ。
「あの人だかりは?」
男からグラスを受け取ると、ジェイは入り口をちらりと仰いだ。
「ああ…。女が酒場に入ってきたらしい」
「女? こんな男達の群れる酒場に入ってくるなんて、よっぽどの好き者だな」
「いや、そんな感じじゃねぇなぁ。
娼婦の女っていうよりは、むしろ何も知らずに迷い込んだ世間知らずの娘さんって感じだったが。連れを探してるみたいだぜ?」
ジェイは男の言葉を聞いて、興味のなかった人だかりに視線を泳がせた。
部屋の薄暗い灯りで見えにくい。
よく目を凝らすと、男達の群れに埋もれるようにして見え隠れする小さな頭が見えた。
亜麻色の小さな頭。
     

     
あれは…―――。









ガタガタッ!!
急に立ち上がったので派手な音がして椅子が倒れた。
「どうした? 兄ちゃん」
「あんの、馬鹿っ!!」
ジェイは男の声に耳もかさず、つかつかと人混みに歩み寄った。


男達に取り囲まれるように、小さい体をなおも小さく縮こまらせて少女が立っていた。
この場の雰囲気とは全く似つかわしくない幼い少女。
抜けるような白い肌に大きな翡翠の瞳。
熟れた果実のような唇をきゅっと結び、頬を桜色に染めて下を向く。
あどけなさを残した幼い顔立ちは、酒場にはあまりにも不釣合いだ。
ガラス玉のように澄んだ大きな瞳からは、今にも涙がこぼれ落ちそうだ。
「何でこんなところに!」
チッと舌を打ち鳴らす。
間違えなくその娘はアイシェだ。
それを確認した瞬間、一気に酔いが覚めた。



「だからよぉ、俺たちと一緒に飲もうって言ってるだけじゃねーか」
「私は連れを探してるの!」
「連れなんか放っておけばいいじゃねーかよぉ」
「でも私、飲めないから……」
「そう言わずに一緒に来いよ。酒の飲み方ぐらい、教えてやるから」
男は嫌がるアイシェの手を無理やり引いた。
「あのっ、でもっ!!」
「そう言わずにさぁ〜」
男はニヤニヤと厭らしい笑顔を振りまきながら、小さな肩を抱く。
「───やっ!」
アイシェは思い切り男を突き飛ばした。
小さな体はその反動でよろめき、その場に弾き出される。
思わず座り込みそうになるのをグッとこらえた。
ここから出たほうがいい。
危険なシグナルが頭の中で鳴り響くのに、男達によって逃げ道を奪われてしまう。
酒場に迷い込んだ小鳥を我が物にしようとじわじわと歩みを寄せる。
こんなところ、ひとりで来るんじゃなかった───。
アイシェは泣きそうな顔でキュッと唇を結んだ。







「あ…っ!」


グイっと。
誰かに腕を掴まれ強引に体を引き寄せられた。
嫌がる体を有無も言わせず自分の側に引き寄せて、その小さな肩を抱く。
「いやぁっ!!」
アイシェが泣きそうな声を上げた。

「なんだあ? お前は!?」
男が荒々しく声を上げた。
ザワリと酒場に動揺の声が広がる。
「悪いけど、他を当たってくれないか」
「!?」
聞き覚えのある声に、アイシェは弾かれたように顔を上げた。
「ジェイ!!」
見上げた男の顔は、アイシェが探していたジェイ本人だ。
知った顔に安堵の表情を浮ばせる。
「何だよてめーは!? 抜け駆けするつもりか?」
「こいつはオレの連れだ」
行くぞ、とジェイはアイシェの背を押して入り口へと促した。
「ちょっと待てや!!」
自分達の見つけた獲物を横取りしようとする男に腹を立てて、男達が怒りに体を震わせる。
「俺達が誘ってんだ。勝手に連れてってんじゃねーよ!!」
「きゃぁっ!」
引き戻そうと手を伸ばす。
「他を当たってくれって言ってるだろ」
その手を軽く払うと、庇うようにアイシェの肩を抱き寄せた。
アイシェが怯えたようにジェイの服をぎゅっと掴む。
その手が小刻みに震えている。
明らかに怯えているのが手に取るようにわかった。
「よそ者がえらそうにしやがって!」
「そんな態度でここから無事に出られると思ってるんじゃねーよな?」
男達が怒りをあらわにして、2人を取り囲んだ。
じわじわと詰め寄ってくる。
力ずくでもアイシェを手に入れようという魂胆だ。

むさ苦しい男しかいない酒場で、女の一人でもいれば酒の盛り上がりも違ってくるだろう。
ましてや幼さを残すものの、アイシェはかなりの美人だ。
我先にとこぞって争うのも分かる。
それを突然割り込んできた男が攫っていこうとしたのだ。
怒り狂っても無理はない。





「ジェイ…」
アイシェが小さく呟いた。
「ごめんなさい、私…」
小さく声を震わせながらジェイを見上げてくる顔は、心底怯えた表情だ。
こんな時に不謹慎だが、たまらなく可愛いと思った。
見上げてくる大きな瞳に、吸い込まれそうになる。
胸の奥をぎゅっと掴まれるような感覚がジェイを襲った。
絶対、こんなならず者のような男達に渡すものかと強く思う。

「いいか、アイシェ。絶対に、オレから離れるな」

不安にすがり付くアイシェを安心させるように声を掛けた。



>>>To Be Continued
| LOVE PHANTOM 第1章 | 15:26 | comments(0) | - |
LOVE PAHNTOM第1章  運命の扉-10-
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LOVE PAHNTOM第1章 運命の扉-10-

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アイシェは暗闇の中、目が覚めた。
目を開けると雨漏りをしたような染みがいくつも残る天井が見えて、ギシギシと梁がきしむ音と、波の音が鼓膜を揺らした。
「…夢…?」
ゆっくりと体を起こす。
そこは北へと向かう船の一室のベッドの上だった。
内容はあまり覚えていないけれど変な夢を見ていた。
激しい動悸がして、呼吸がうまくできない。
胸に手を当てると、かなり早く脈打っているのがわかる。
アイシェは大きく息を整えながら、首に下げた巾着型の袋を握りしめた。
萌葱色の巾着に麻紐を通したそれは、生まれたときから身に着けている大事なお守りだ。
これに触れるといつも心が落ち着き、気持ちが安らぐ。
時には自分に力を貸してくれるようにも感じる。
アイシェにとってなくてはならない大事なものだった。


しばらくそれを握りしめ、瞳を閉じていると次第に気持ちが落ち着いた。
汗で額に張り付いた髪を払う。
寝間着がじとりと汗で湿っている。
とりあえずぬれたそれを着替えようと、サイドテーブルに置かれた服に手を伸ばした。
「…ジェイ?」
布でしきった部屋の向こうで寝ているはずのジェイに、そっと声を掛けてみる。
アイシェのために部屋を取ってくれたのだが、旅の路銀が少ない為、小さな部屋をひとつ取るのが精一杯だった。
自分は他の男達と雑魚寝でいいからと部屋を出て行くジェイに、それでは申し訳ないからといって引き止めたのだ。
しつこいアイシェに根負けをして、その部屋を半分シーツで仕切り、ジェイは扉に近い床に寝ているはずだった。


返事がない。
ジェイが寝ていることに安心して、アイシェはぬれた寝間着を脱いで服に着替えた。
手持ちの服はさらわれた時に着ていた一着だけだ。
あとは船内に用意された麻の薄い寝間着が一枚。
アイシェは汗で汚れた寝間着を洗おうと、そっと部屋を仕切る布を開けた。
「…ジェイ?」
そこに寝ているはずのジェイの姿がない。
寝床も冷たくなっている。
部屋を出てからずいぶん経っているようだ。
「どこに…行ったの?」
部屋のドアをそっと開けた。
昼間とは打って変わって人の気配のない長い廊下を歩き、上へと続く階段を登る。
時折、梁がきしみ不気味な音を立てる。
昼間は賑やかさであまり思わなかったが、夜の船の廊下は窓もなく不気味だ。
閉ざされた空間だから、余計にそう思うのだろう。
さほど広くもない廊下を恐る恐る歩くと、ひとつだけ雰囲気の違うにぎやかな部屋の入り口にたどりついた。
「何? ここ…」
アイシェはおそるおそる部屋の扉を開けた。



ムン、と鼻をつくような臭いがして一瞬、顔をしかめた。
酒と煙管、海の男達の独特な臭いが入り混じった臭いだ。
そこは船内の酒場で、小さなカウンターを囲むように男達がひしめきあっていた。
カウンターの他に小さなテーブルが3つほど並び、男達の低い笑い声が響く。
その中にジェイの姿がないか、背伸びをして探す。
小さなアイシェにとって背の高い男達の中から探すのは至難の業だ。


「────よう。誰かお探しかな?」


突然、頭の上から声が降ってきた。




>>To Be Continued
| LOVE PHANTOM 第1章 | 15:15 | comments(0) | - |
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