RS FANTASY

りくそらたのファンタジー小説おきば。
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LOVE PAHNTOM第2章  ファントム-1-

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第2章 ファントム-1-

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どれぐらい船に揺られていただろう。


はじめは小船で数時間だった。
ジェイは小船を出す前に腕を縛られ目隠しをされた。
視界が奪われ、逃げる手段を奪われた。
ここでじたばたしても無駄だろう。
むしろ悪あがきはしない方が利口だ。
向こうはこちらを必要としている。それがどういう理由かは分からない。だが会うまでは何もしてこないだろう。
アジトの手がかりが何も掴めていない今、絶対的不利な条件ではあるが、正面からアジトに乗り込める。
そう考えると、かえって好都合だった。


それよりも捕らわれたアイシェの方が心配だった。
取引の為の大事な人質だ。それまでは殺したりはしないだろう。
それよりも女として、弱い立場に追い込まれたりしていないだろうか、手荒な扱いを受けていないだろうか不安だ。
あるいはもしそんな状況に追い込まれた時、アイシェが呪術を使ってしまわないだろうか。
彼女のラグナの力ならその場は難なくしのげるだろう。
だがその先の保証がない。
呪術ひとつの力で女ひとりが切り抜けられるほど、甘くはないだろう。
力で抑え込まれたら、アイシェなどひとたまりもないのだから。
一緒にいたはずのエドも心配だ。

「…まさか、殺されてたりは、してないだろうな…」
小さく呟く。
「何か言ったか?」
見張りの男がこちらを振り返った。
目隠しをされていても、それぐらいは気配で感じ取れる。
「…何でもねーよ」
ジェイは黙り込んだ。
そんなこと、考えたくもない。
ふたりとも無事であって欲しい。
もう、自分の為に誰かが傷つくことなどあってはならない。


小船で数時間揺られた後、途中で船ごと、どこかの大きな船へと引き上げられた。
おそらく本船だ。
その後小さな部屋へ移され、腕を縛られ目隠しをされたまま見張られる状況にいた。

(────じたばたしてもしょうがねぇ。腹をくくるしかないな、こりゃ)

ジェイは決心を固めた。





□ □ □



数日して船はどこかの大陸、もしくは島へ着いた。
敵の集団は統率が取れていて、それぞれの役割をてきぱきこなす様子が耳からも伺えた。
こういう統率の取れた集団は厄介だ。
ジェイは小さく舌を鳴らす。

しばらくして船から降ろされ、どこかの建物へと連れて行かれた。
そこで初めて目隠しを外され、久しぶりの光に目を細める。
見たことのない地下牢のような部屋に、男がひとり立ちすくんでいた。




「…エド、か…?」
最初に視界に飛び込んできたのは懐かしい顔だった。
「ジェイ!!」
「無事だったんだな、よかった」
心底安心したように、息を吐いた。
「…ごめん、ジェイ。僕が付いていながらこんな事に…」
「済んだ事はしょーがねぇよ。こんな状況で無事なのは幸いだ。それより状況を説明してくれ」
その言葉にエドは頷くと、捕らわれるまでの状況を話し始めた。


「───じゃぁ渓谷に着く寸前で、二人して捕われたのか」
「…我ながら情けないよ。僕よりもアイシェの方が、強かったぐらいで…」
エドはがっくりと肩を落とす。
無理もない。
エドはもともと腕の立つほうではない。その上アイシェのラグナの力を目の当たりにしたのなら、なおさらだろう。
「彼女は無事なのか?」
「…わからない。だけど…だぶん殺されるような事はないと思う」
「どうしてわかる?」
いくら取引の為の人質だとしても、殺されないという保証はない。
セイラは殺されたのだ。
「…ここの統領が、その……アイシェの事をかなり、気に入ってた様子だったから…」
バツが悪そうに目を伏せて、エドが言葉を濁した。
その先は聞かなくても分かる。
命よりも貞操の方が危機かもしれない、ということだ。
「くそっ!」
ジェイは言葉を吐き捨てた。

こんなことになるのならあの時、側から離すべきではなかった。
危険を回避したつもりが、逆に更なる危険を呼び込んだ。
後悔しても悔やみきれない思いが、ジェイの中を駆け抜ける。


───失くす前に気づけよ?


船でジルが言っていた言葉を思い出した。


───赤い目の男に気をつけろ。






「…まさか───」
「ジェイ?」
「あのおっさん、グルかよ」
そう取れば忠告のつじつまが合う。
「ちくしょう!!」
ジェイは思い切り部屋のドアを蹴り上げた。




「何をしている!?」
ドアが開いた。
ふたりの様子に一瞬顔をしかめると。
「頭領がお呼びだ。来てもらおうか」
腕に刺青をした男はそう言って、ふたりを部屋から促した。
「願ったりだぜ」
ジェイは吐き捨てるように呟いて、男の後に続いた。



地下牢から階段を上がり、長い廊下を抜けると広間に着いた。
ラスラの地下に張り巡らされたアジトと違って、ここはそんなに大きな建物ではないらしい。
広間に入ったとたん、ムンと異臭が鼻をついた。

(────何だ、この匂いは)

ジェイは顔をしかめた。
まるで香を焚いたような、独特で癖のある匂い。
眩暈がしそうだ。
後から付いて来るエドを振り返ると、気づいていないのか平気な顔をしている。

(気のせいか…?)

ジェイは眉を寄せる。
鼻が慣れたのか、それとも気のせいだったのか、しばらくするとその匂いは感じなくなっていた。





広間の中央まで来ると、乱暴に体を突き放された。
急に支えがなくなってバランスを崩した体が、冷たい床に転がる。
「何すんだよっ!」
ジェイは荒々しく声を上げ、連れてきた男を睨みつけた。
「お前がジェイか」
その男とは反対の頭の上で声がした。
低く図太い声。
顔を上げると広間のずっと奥、一段高いところにまるで王宮の玉座にでも腰かけるような態度でひとりの男が座っていた。
がっちりとした風体に、赤茶けた髪を肩まで伸ばし、ふてぶてしいまでの偉そうで人を見下したような目。
分厚く浅黒い唇の端が小さく上がった。

「お前の噂はいろいろと聞いているが、こうして会うのは初めてだな?」
「あんたか」
皆が頭領と呼ぶ男。
セイラを攫いアイシェを攫い、自分の人生を狂わせた男。
目的の為には手段を選ばない。
体の底から震えがくる。
恐怖ではなく、怒りだ。


赤毛の男は見下したようにジェイを見つめると、ハッと乾いたような笑みを吐いた。
「いい目だ。こんな状況に置かれても、恐怖どころか怒りを露にするとはな。たいした度胸だ」
「俺に何の用だ?」
「お前は一級のトレジャーハンターだそうだな。お前の手にかかれば、解けない謎や手に入らない宝はない、と。その上腕も立つ」
「…それが何だ?」
「どうだ? 俺と手を組まないか」
「手を組む? 俺が?」
「そうだ」
「…目的は何だ?」
「あん?」
「別に俺じゃなくても、トレジャーハンターなんかそこいらにいるだろ。俺でなければならない理由は何だ?」
セイラを攫って、アイシェを攫ってまで手に入れたい宝。
人の命よりも尊いものなんてないのに。
「何を狙ってる?」
男がハッと笑った。
「勘がいいな、お前。さすが俺が見込んだだけの価値はある」
「…」
「まぁいい。その方が話は早い。
お前の腕を見込んで、手に入れたいものがある。───これだ」
赤毛の男は懐を弄ると、中から何かを取り出した。
シャラン。
その手から、鎖にかかった不思議な石が滑り落ちる。
何物にも変えがたい不思議な輝きを持つ翠の石。






「それは───」


今までに見た事のない神秘な輝きに、一瞬、我を忘れて息を飲んだ。
震えさえ沸き起こる。




「ファントムだ」
「…ファントム!?」

予想もしていなかった言葉に、ジェイは大きく目を見開いた。
ゴクリ、喉が鳴る。


ファントムは、トレジャーハンタを職業としている者に知らないものはない知名度の高い幻の石だ。
あまりに神秘的な輝きに、その石の創造者は神ではないかといわれるほど魅惑的な輝きを放つ。
元は翠色をした鉱石だが、見る角度やその時の状況によって銀色にも金色にも、時には七色にも見えるという輝石だ。
その不思議な輝きだけでも手に入れる価値が高い石だが、それ以上に危険を冒してまで手に入れたがる理由が存在する。
その石を手にすると、願いが叶うとも、不老不死を手に入れるとも世界を支配するとも言われている伝説の石。
しかし石にまつわる神話や伝説は数多く存在するが、どれも摩訶不思議な話すぎて現実味がない。
実際、手に入れた者の話を聞いたことがない。
それゆえファントムという名の通りその存在は幻影とも幻とも言われ、存在するか否かさえ未知に包まれていた。
それでもなお、石に魅せられ生涯をファントム捜索の為に費やす冒険家やトレジャーハンターも少なくない。
それに纏わる書物はジェイも山のように見てきた。
でもどれが真実なのかはわからない。





「本当にそれが…───」

ファントムなのだろうか。
トレジャーハンターが恋焦がれ追い求める石。
ジェイの父親もその石を追っていた。
よく父親が口にしていた輝石の名前。
それは忘れたくても忘れられない。


「ファントムは夢や幻ではない。神話の世界のものでもない。実在するんだよ、現実にな」
ジェイの様子に満足そうにほくそ笑みながら、石をチラつかせる。
「それをどこで…」
「少し興味が沸いたか? トレジャーハンターのお前なら、喉から手が出るほどほしいものだろ?」
「…それをどうするつもりだ?」
「お前は、この石の存在理由を知らんのか?」
「存在理由?」
そんなものは聞いた事がない。
石が存在するのに理由がいるのだろうか。
ファントムが実在することさえ、知らなかったというのに。


「まぁいい。それは追々説明してやるよ。
どうだ? 俺と組まんか? 資金も山のようにあるぞ? 恵まれた環境で捜索、発掘できるんだ。悪い話じゃないはずだ」
そう言って赤毛の男がニヤリと笑った。
ジェイの予想通りの反応に、満足した笑みを浮かべる。
この石を前に揺るがない者などいない。
そう思ったに違いなかった。
正直、気持ちが揺るがなかったといえば嘘になる。
あの石の輝きを前にした時、体が震えた。
父が恋焦がれてやまなかった、人生を棒に振ってまで追い続けたあの石が目の前にある。
幼い自分や家族を捨ててまで追い求めた石。
それが目の前にある。
手を伸ばせば、届く距離に───。



だからといって簡単に仲間を見捨てられるほど、自分は落ちぶれてはいないつもりだ。
目の前に餌をちらつかされて、本来の目的を忘れてしまうほど馬鹿じゃない。
ここに来た目的は、ファントムではない。



「────断る」


「何?」


男の眉がピクリと上がった。
「馬鹿馬鹿しい。大体それが本物だっていう証拠があるのか?
たとえ本物だったとしても、人間の屑に成り下がってまでそれを探す価値はない」
そんなのは真っ平ごめんだ。

「──そうか。
貴様は自分の置かれている状況が、わかってないみたいだな」
ハッと馬鹿にしたように短く笑うと、
「連れて来い!」
荒々しくそう言い放った。
それと同時に、その言葉をずっと待っていたかのように奥から声がした。


「いや…ッ! 離して…っ!!」
悲鳴に近い高い声。
おぼつかない足元で倒れそうな体を乱暴に掴まれ、部屋に連れ込られた小さな体。
長くしなやかな亜麻色の髪を振り乱し、頑なに首を振って抵抗する姿。
ガラス玉のように澄んだ大きな瞳が、こちらをふり返った。
視線があった瞬間、それが大きく見開かれる。








「…ジェ…イ……?」



小さな唇が名前を呟く。
その瞬間、ずっと緊張の糸を張り巡らせて強張っていた顔がゆるりと歪んで、崩れた。


「…アイシェ───!」


間違えなく、その少女はアイシェだった。
離れてから数日しか経っていないのに、ひどくやつれたような気がする。
健康的な血色のいい肌がひどく青白い。
何かに怯えたような瞳。
無傷ではあるが、精神的にかなり参っているようだった。





「どう…して……」


翡翠の瞳に涙が浮ぶ。
今にも泣き崩れてしまいそうな表情でじっとジェイを見据える。
溢れた涙が大きな瞳からこぼれ落ちそうだ。


「彼女を放せ。無関係なはずだ!」
「無関係? この女は大事な取引の為の人質だ」
「…あ…っ!」
赤毛の男は強引にアイシェの小さな体を引き寄せた。
細い首元に腕を回し、身動きが取れないように羽交い絞めにする。
「…っつ…」
アイシェが苦しそうに顔を歪めた。
少しでも腕に力を入れると簡単に首が折れてしまいそうだ。

「こいつ、いい女だと思わねぇか?
まだまだガキ臭いが、後二、三年もすればとびきりのいい女になる原石だ。そう容易くは手放せんなぁ」
厭らしい笑みを浮かべながらアイシェの細く白い腕を取り、手の甲に無理やり唇を押し当てた。
「いや…ぁっ!!」
アイシェが頑なに顔を背けた。
その顎を乱暴に掴み、再度自分の方へ顔を向けさせた。

「アイシェに触んな!!」
「…ジェ…イ…っ」
今にも泣き出しそうな表情でアイシェが名前を呟く。
大きな翠の瞳に涙の雫が光る。
「触るなだと? お前のものでもないくせに」
赤毛の男は不敵な笑みを浮かべ、なおも挑発するかのようにアイシェに触れていく。
「この瞳の輝きがまるで、ファントムのようだと思わんか? この目を見ていると、全てが俺の手中に収まる事を象徴しているかのようだ。勝利の女神として、ぜひわが手元に置きたい」
後ろから顎を掴み、顔を寄せる。
アイシェの体が恐怖に小さく身震いした。




「やめろっ!!!」

飛び出して殴りつけてやりたかった。
どうしてそんな気持ちが起こるのかわからない。
でも、アイシェに厭らしく触れるあの男がどうしても許せなかった。
胸ぐらを掴み、顔の識別がつかないくらい殴り飛ばしてやりたい。
その衝動でさえ、たやすく抑えつけられてしまう。
「放せよっ!!」
憤る体を男達が三人がかりで押さえつけ、床にねじ伏せた。

「この女がそんなに大事か?」
「…離せって、いってんだろ…ッ?」
「聞こえんなぁ?」
「それ以上、アイシェに何かしてみろ…」
「どうするつもりだ?」
勝ち誇ったような目で見下ろすようにジェイを一瞥すると、男はアイシェの首筋に唇を押し付けた。
「い、やぁ…っっ!!!」
アイシェは嫌悪に顔を歪め精一杯の抵抗を試みるが、その動きは簡単に封じ込められてしまう。
それどころか男の挑発はますますエスカレートし、アイシェのなめらかな肌を味わうかのように、細い首筋に舌を這わせていく。
ねっとりとした感触が体を駆け抜ける。
悪寒が走り、鳥肌が立った。



「や、めろ───ッッ!!」

ジェイの叫び声が響いた。
アイシェの首筋に唇を押し付けたまま、男がニヤリと笑った。

「どうだ、少しは気が変わったか?」
「ジェイ…っ、だめっ!!」
アイシェが激しく首を横に振るのが見えた。
「てめぇは黙ってな!」
「…ぐっ…」
その口元を大きな手で塞ぐ。
アイシェが苦しそうに顔をゆがめた。





「返事を聞こうか?」

男が笑った。
勝ち誇ったような自信たっぷりの笑みに、反吐が出そうだ。
男の腕の中で、大きな瞳に零れんばかりの涙を浮かべて、自分を見つめる小さな少女の姿。
散々嫌な思いをしてきたであろうに、それでも頑なに首を横に振る。
NOと言えという。
その姿があまりにも痛々しく、胸が激しく痛んだ。
今すぐにでも開放してやりたい。
無傷で解放できるなら、このまま裏世界で生きていくのも悪くないかもしれない。
資金もたんまりある。
恵まれた環境の中で、ファントムを探すのも悪くはない。

ただ。
こんな卑怯な形で屈服するのは、ジェイのプライドが許せなかった。







「どうだ、俺と組まんか?」







「────断るって言ってるだろッ!」



予想もしていなかった答えに、男の顔が思い切り歪んだ。








「…今、なんて、言った…?」


片眉がピクリと上がる。
「てめーの世話にはならねーし、屑の仲間になる気もさらさらねーよ! そこまで俺は落ちぶれちゃいない。馬鹿にすんな!」
脅されたからといって、簡単に揺れ動くほど落ちぶれたつもりはない。
何かを犠牲にしてまで手に入れるなんて、性分に合わない。
ファントムも手に入れて、アイシェも連れて帰る。
欲しいものはどんな事をしても手に入れる。
でもそれは、犠牲を払ってまで価値のあるものではない。




「…そうか。
おとなしく返事をしていれば、楽で贅沢な暮らしができたのになぁ。残念だ───」
「んんんんーーーーっ!!!」
アイシェの目が何かを訴えたげに、ジェイを見つめた。
その隣で男が最上級な不敵な笑みを浮かべたのが見えた。
その瞬間だった。



「…ッつ!?」

わき腹に激痛が走った。







「どういう…こと、だ…?」


押さえた掌から血が伝って落ちる。
ジェイはじわり、後ろを振り返る。








「…エ…ド…」

そこには昔から知っている顔があった。
手には短刀が握られ、刃先から赤い血が床へ滴り落ちる。
間違いなく床を赤く染める血は自分のものだ。




「…セイラの仇だ…」
エドが震える声で呟いた。


「…なに、を…」

偽りではなく、本心から出た言葉。
憎しみの炎を隠す事もせず、こちらを睨みつけていた。


「────死ね!!」

短刀を握りしめ、ジェイに向かう。
その光景をあざ笑うかのように、見下ろす赤毛の男の姿。



「嫌ぁぁぁっ!!!ジェイーーーーーっ!!」



アイシェの悲痛な叫びが、部屋中に響き渡った。





>>To Be Continued
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