RS FANTASY

りくそらたのファンタジー小説おきば。
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LOVE PAHNTOM第2章 ファントム-2-  
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第2章 ファントム-2-

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「ジェイっ!! ジェイーーっ!!!」
アイシェの悲痛な声が部屋いっぱいに響いた。
今すぐ駆け寄りたいのに、体が思うように動かせない。
もどかしい思いが体の中を駆け抜ける。
ジェイから流れ落ちた血が、床に血の海を作る。
こんな光景は前にも見た。知ってる。
無残に床に横たわるセイラの姿。
何も出来ず冷たくなっていく体。
ついさっきまで普通に話したり笑ったりしていた人が、どんどん冷たくなっていく恐怖。
どうにもならないもどかしさと、自分の無力さを思い知った瞬間。
もうあんな思いをするのは二度と嫌だと思っていたのに、人の命はなぜこんなにも儚くもろいのか。
自分が何の為に存在しているのかさえ、分からなくなる。

駆けつけて癒しの術を使いたい。
今ならまだ間に合うかもしれない。
早くしないと取り返しのつかないことになる。
もう、人の死に行く様を見るのは二度とごめんだ。
ラグナさえ、使えれば────。



「おっと、何をする気だ?」
アイシェの異変に気づいた男が耳元で囁いた。
熱を帯びたざらりとした不愉快な声に、悪寒が走り鳥肌が立つ。
「あなた…絶対に許さないからっ!!」
「どう許さないつもりだ?」
男が不敵な笑みを浮かべ、耳元へ唇を押し付ける。
「やれるもんならやってみろ」
息を吹きかけるように耳元で囁いた。
体が、嫌悪に震えた。
「自分の命を削ることになってもいいのなら、勝手にすればいい」
アイシェの表情を面白そうに窺いながら、勝ち誇ったように笑う。


(馬鹿にしてる!)

憤りを感じる。
女としての弱い立場に追い込まれ、無理を強いられる。
自分はいつも無力で、何もできない。
ただ助けを待つことしかできなかった。
あの時も、今も───。


ジェイはいつだって全力で助けようとしてくれたのに、自分は足手まといになるだけで、何もできない。
彼を傷つける事しかできなかった。
「…っ…」
悔しくて噛み締めた唇。
じわりと涙が浮ぶ。
(泣いてなんかいられない。私にもできる事があるんだから)
できることがあれば、ただひとつ────。





アイシェは押さえつけられた腕の間から、必死に手を伸ばす。
自分の体をすっぽりと覆う巨体からの動きはそれが精一杯だ。
術が届けば、癒しの光が届けば、ジェイは助かるかもしれない。
今ならまだ間に合う。
何もせず見ているだけなんて、二度とごめんだ。

「…っぁぁあああぁぁーーーーーっ!!!!」

手を伸ばし、ラグナの力に意識を集中した瞬間。
アイシェは悲鳴に近い声を上げた。
体と脳に激痛が走る。
締め付けられるような、電撃が身体中を駆け巡るような激しい痛み。
まるで魂が、伸ばした指先から吸い取られていくかのように、生気が指先から抜けていく。
「やめておけ」
男が唇の片隅を上げながら、耳元で囁いた。



「…ッ、イヤ…よっ…」

それでもなお、諦めない。
諦める事ができない。
自分にできることは、これしかないのだ。
セイラの時も、ジェイの時も。
自分の為にふたりが傷付いた。
自分さえしっかりしていれば回避できた事なのに。

(私のせいなの。だから────)


抜け出た生気を吸い込むように、精一杯息を吸い込む。
「無駄なのが分からないのか? 馬鹿な女だ」
男に後ろから顎を強く掴まれる。
「…っう…!!」
指が頬に喰い込み、顎の骨が砕けそうだ。
それでもなお、残りの力を振り絞って床に転がって青白くなっていくジェイに手を伸ばす。




(────お願い、届いて!!)


「…っ…ひぃ…ぁぁあああっ……っ!!!」

願いも虚しく、アイシェの切ないまでの絶叫が部屋に響いた。
全身から命の欠片がポロポロとはがれ落ちていくかのように、力が抜けていく。
立っていることさえままならないほどの脱力感が、アイシェを襲う。
もう支えられて立っているのが精一杯だ。

癒しの力は。
ジェイには届かない────。




「だから言っただろう、無駄だと」
男の乾いたような声が聞こえた。

「…ジェ、イ……」

声はもう、届かない。









ピクリ。
ジェイの体が動いた気がした。


「…ジェ…イ……?」

小さく呟く。
崩れ落ちていくような意識の中、幻でも見たのだろうか。
それでもなお、生きていてほしいとその名を呼ぶ。

「ジェイ! …ジェイ…っ!!」



ピクリ。

その手が小さく動いた。
今度は幻でも見間違えでもない。
床にうつ伏した手が、確かに動いたのだ。



「────ジェイ…っ!!」



「…てんめぇ、アイシェに、何をした…っ!?」
呼びかけに答えるように、ジェイがゆっくりと顔を上げた。
震える手で体を支え、渾身の力で奮い立たす。
脇腹を押さえた手から、ポタポタと赤い血が滴り落ちた。



「ほお…。まだくたばってなかったか」
しぶといな、と馬鹿にしたような顔がジェイを見下ろした。
「…アイシェにっ、何をした…っ!?」
「あん? 俺は何もしてないぜ。こいつが勝手にやったことだ」
「…何を…っ」




「────これだ」

男は抵抗する力さえも残っていない人形のようになったアイシェの腕を取ると、その手をかざす。
その不可解な行動にジェイが目を細めた。


「“呪術制御リング”。ラグナを吸い取る指輪だ」
「…指、輪?」
ジェイの方へとかざされたその細い指にはめられたリングが鈍く光った。
見たことも聞いたこともない代物だ。

「これはお前達のような能力者を対処すべき品として、作られた指輪だ。まだ試作品ではあるが、なかなか役に立つ」
「俺たちのような、能力者…?」
「お前達のようなラグナを術として使える者達、すなわち能力者だ。
ラグナの力を術にして使おうとすると、指輪に施した呪譜によってその力を吸い取る。身を削るような激痛を伴ってな。この女はそれをわかっていながら、ラグナを使おうとした。自分の命が削られる事を承知の上で」
馬鹿な女だ、と鼻で笑う。
「…くっ!!」
「これは指輪をはめたものにしか外せない。すなわち、俺にしか外せない」
勝ち誇ったような顔でジェイを見下ろす。
「俺のものだという印だよ」
厭らしい笑みを浮べながら、指輪をはめた細い指に唇を押し当てる。
アイシェはもう、拒絶の態度を見せない。
支えられて立っているのが精一杯だ。



「もうラグナは使えまい。かろうじて命の灯が残っている程度だ。使えば、次が最後だ────」
「テメーはっ!!どこまで卑怯なんだよっ!!」
ジェイは吐き捨てるように叫んだ。





(────どうすればいい!?)




かろうじて急所は外れたものの、傷はかなり深い。
武器になりそうなものは手元にない。
アイシェは男の手の内だし、エドまであちら側だ。
このままなすすべなく終わってしまうのだろうか。
秘策もなく、ここへ乗り込んできたのはやはり無謀だったのだろうか。
(────考えろ!)
こんなところでくたばるわけにはいかない。
まだ目的は何も果たしてはいない。


「そうだな。このまま簡単にくたばるのを見てもおもしろくない。
お前にチャンスをやろう。生き延びるチャンスだ。死にたくないなら、そいつを殺せ」
「なっ…!!」
男の指差した方角。
それを見てジェイは絶句する。
そこには短刀を片手に、今は主になった赤毛の男の指示を待つエドの姿があった。
男の言葉に驚く様子も見せず、ただ指示を仰ぐ。
憎しみの炎が静かに燻っているのが肌で感じ取れた。




「そいつはお前に復讐するためだけに、ここへ入ってきた。この女をさらって来たのもそいつだ」
「…エド、が……?嘘…だろ?」

「……」

「…エド、今の本当か…?」


「…」




「エドっ! 答えろよっ!!」




親友の名前を強く呼ぶ。
「…僕、は───」
体が一瞬、ピクリと跳ねてその重い口を開く。
「僕には、神の祝福が与えられなかった」
「…何の事を言ってるんだよ?」
言っている意味が分からない。
「ジェイやセイラみたいに、ラグナの力を術として使えない。僕は無力なんだ…!」
吐き捨てるように唇を噛み締めた。
強く噛んだ唇から血が滲む。




「それは違う! そんなこと関係ないっ!!」
「関係、ない…?」
「第一、ラグナの力を術として使えるのはほんの一握りで、使えない方があたりまえなんだ。それだけで神の祝福がないなんて…」
「そうだよ。そんなの分かってる。
それでも僕はセイラがいればそれでよかった。僕の分も彼女が祝福を受けているんだ、そう思えば幸せだった。
なのにどうして!? どうしてそいつが生きて、セイラが死ななきゃならないんだ!! その女の代わりにセイラが死んだ!!」
憎しみの炎を剥き出しにして、アイシェを睨みつける。
男の腕の中でアイシェの顔が辛そうに歪んだ。
「それは関係ない! アイシェは無関係だ!」
きっかけはどうであれ、アイシェも被害者のひとりだ。
でもその声はエドには届かない。



「許さない! そいつもお前も!!
ふたりに復讐できるのなら、何でもよかった。ここへの勧誘は僕にとって、好都合だったよ───」

カシャン。
短刀の柄を強く握りしめる乾いた音が響いた。
静かに怒りの炎を燃やし、セイラを死に追いやった自分やアイシェへの復讐だけに生きる顔。
それはジェイが昔から知っている親友の顔ではなかった。



「エド、お前は何か勘違いしてる! セイラが死んだのはアイシェのせいじゃない! 俺のせいだ!!」
自分を庇って命を落とした。
あの光景は、一生忘れないだろう。
これから死ぬまでずっと、自分が背負っていかなければならない十字架だ。





「そんなの、違う…」

小さな声がした。

「ジェイの、せいじゃない、よ…。悪いのは、私。
私があの時、掴まったりしなければ…。私が油断、した…から…」

「アイシェ…───!」



駆け寄ろうとした道を簡単に絶たれてしまう。
傷が深いせいで、体がいう事をきかない。
思ったよりも受けたダメージは大きかった。
「ふ〜ん。セイラが死んだっていうのに、ふたりでよろしくやってたんだ」
エドはゆっくり歩み寄ると、頬にピタリと剣先を突きつけた。
顔を耳の側に寄せる。



「───好きなんだ、アイシェの事」



ジェイにだけ聞こえるように呟いた。




「…なにを───」
「ジェイがこんなにも必死で人に執着するの、初めて見たよ」

口の端に笑みを乗せる。

「それは───、っうっ…!!」

言葉を発する前に、ジェイはその場に崩れるように座り込んだ。
エドの拳がみぞおちに入った。
押さえる手から血が溢れる。


「…ジェイ…っ! ジェイっ…!!」
自分を呼ぶ声が遥か遠くに聞こえる。
激痛に意識が跳びそうだ。



「そんなの、どっちでもいいよ。セイラは死んだんだ」


冷めた目でジェイを見下ろした。
「言っただろ? 仇を取る為なら、利用できるものは利用させてもらうって。今のジェイはちっとも怖くないね。負ける気がしない。そうやって意識を保っているのも精一杯じゃないのか?」
エドが馬鹿にしたように笑った。
人を見下した乾いた笑み。
幼い頃から知っている優しくて穏やかなエドのそれとは違う、冷酷な笑み。
エドは変わってしまった。
変えたのは自分だ。
セイラが死んだ事でエドは変わってしまった。
愛しいものを失くすというのは、こうも人を変えてしまうのだろうか。
憎しみの矛先の違い。
セイラを失くしたことでジェイは攫った者を憎み、エドはそのきっかけとなったジェイやアイシェを憎んだ。
そうでもしなければ、やりきれなかったのだろう。
憎まれて当然だ────。


「チャンスをやろう」
男が口を開いた。
それと同時に一本の古びた剣がジェイの前に投げ込まれた。
「助かりたいなら戦って勝ち取るんだな。そいつの命と自分の命、秤にかけたらどっちが大事かぐらい、わかるだろう?」
男がにやりと笑った。




「…ひど…い…っ!」

アイシェが力なく顔を覆った。
命の重さなんてみんな同じなのに。命の価値なんて比べることができないのに。
自分にはどうすることも出来ない。
無力だ。
ラグナを使うことも、腕を振りほどいて逃げ出すことさえも出来ない。
足手まといになっているのは自分だ。
本来の彼は、こんな場面で燻っているような人物ではないはずだ。





(────私さえ…)


「…ジェイ…っ! 私は、いいから…私のことはいいからっ、だから…っ、あうっ!!」
「うるさい! てめーは黙ってろっ!!」
素手で乱暴に殴りつけられる。
小さな体が派手に飛ばされ、床に叩きつけられた。
「アイシェっ!!!」
「お前はおとなしく言うことを聞いていればいいんだよ! よけーな口出しすんじゃねぇ!」
アイシェの長い髪を掴み引き上げた。
「…痛・・っ!!」
苦痛に顔が歪む。
「ラグナを使えないお前は、ただのひ弱な女だ。自分の立場、わかってんのか?
これ以上、余計な真似をすると、タダじゃ済まさんぞ?」
アイシェの体を乱暴に壁に押しやると、耳元に唇を押し付けた。
「俺はできるだけお前を傷つけたくねぇ。わかるだろう?」
骨太な指が頬に触れ、唇をなぞる。
「…イヤ…ぁっ!!」
そむけた顔を掴み、唇に触れるか触れないかの距離まで顔を寄せる。
ニヤリと厭らしい笑みを浮かべた後、手がアイシェの身体を弄り、押しつぶすように柔らかな胸の膨らみに触れた。
「…や───ッ!」
アイシェは不快な感触に顔を背けた。
吐き気がする。
「やめろっ!!」
「この期に及んでまでも女の心配か? なぁに、心配しなくても後で俺がたっぷり可愛がってやるよ。さあ、やるのかやらねーのかっ!?」
男の図太く大きな声が響いた。










「…俺には、できない────」

「じゃあ、おとなしく殺されるんだな?」


ジェイは与えられた剣さえ拾おうともしない。


「ジェイ…だめっ……」


ジェイが殺されるのはもちろん、エドとも争って欲しくない。
どうしようもない選択肢を前に、ただ泣くことしかできない自分が歯痒くてたまらない。






(誰か、助けて───!)










その時だった。



ガシャーーーンッッ!!
何かが割れたような音が響いて、空からガラスの破片がパラパラと降ってくる。


「甘ったれたこと言ってんじゃねーよ! このクソガキが!!」


突然降ってきた声に、そこにいた者全てが弾かれたように声の主を振り返った。
見上げた瞬間、割れたガラスの破片と共に人が飛び込んだ。
全ての隙をついた行動に、一同あっけにとられ躊躇した。






「自分の落とし前は自分でつけろ!! シャキッとせんかっ、坊主っ!!」



「────おっさん…!」


天窓から飛び込んできた意外な人物の登場に、ジェイは言葉を零す。





>>To Be Continued
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