RS FANTASY

りくそらたのファンタジー小説おきば。
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LOVE PAHNTOM第2章 ファントム-8-  
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第2章 ファントム-8-

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その後、休養を取り旅支度を整え、ジェイとアイシェは大陸を南下してシュラの村のある風の渓谷へと向かうことにした。
本当はすぐにでも出発したかった。
一所に留まるのは危険だ。
あの男はジルの事も知っている。
こんな港街に船を停泊していたら目立つに決まっている。
すぐにでも離れた方がいい事はわかってはいたが、目を覚ましたばかりのアイシェにそれを強要するのは過酷だった。
体力的にはずいぶん回復しているようだが、精神的に受けた傷は思っている以上に大きく深いものだった。

あの日。
ジェイの胸に顔を埋めて嗚咽を漏らすアイシェは、しばらく泣きじゃくった。
涙が枯れるまでという言葉はこういうことを指すのか、と思わせるほど泣いた。
しばらく泣くとすっきりしたのか、村に帰れる安堵感もあって、今まで抱えてきたものが吹っ切れたようなすがすがしい顔をしていた。

村への帰郷。
それはこれからアイシェに降りかかってくるであろう運命に翻弄される前の穏やかなひと時なのかもしれない。
村へ帰ればまたしばらく外へは出られなくなるであろうアイシェに、外の街を見せてやりたかったし、ジェイ自身、もう少しアイシェの姿を見ていたかった。

体力の回復したアイシェは、よく動き、笑い、怒る。
本当に表情豊かで、元気だった。
何もせずにお世話になるのは申し訳ないからと言って、今のうちに休んどけと止めるジルの言葉も聞かず、自分からどんどん仕事を見つけ動く。
あまり器用ではないが、そこは持ち前の明るさと愛嬌でカバーしつつ、そうこうするうちにいつの間にかクルー達にも溶け込んでいった。

こういうアイシェを見るのは初めてだった。
初めて会ったのは、捕虜としてラスラの地下に捕まっている時だったし、船で移動したときもセイラの事件で表情は曇りがちだった。
アサシンのアジトに至っては、ふたりとも瀕死の状態を彷徨い笑顔なんてなかった。
だからこんなアイシェは知らない。
本来の姿はこんなによく笑い、動き回るものなのかと、休むことなく動き回るアイシェの姿を見つめながら、ジェイはぼんやりと考えていた。
操られていたとはいえ自分を騙たエドとでさえ、いつの間にか和解し、今では仲良く一緒にジャガイモの皮を剥いていたりする。
アイシェの側には笑い声が絶えない。
本来の彼女はこうだったのだろう。
大自然に囲まれた中で、天真爛漫に育ったアイシェ。
こういう姿を見ていると、もう二度とあんな闇の世界へ足を踏み込ませたくないと思う。
こうやって太陽の下で、笑い声に囲まれて明るく生きるのが一番いいはずだ。
村に帰ればそうした生活が戻ってくる。
いつまで続くかはわからないが、それがアイシェにとって一番安全で幸せな道なのだ。
一緒にいればいるほど、離し難くなっていく自分にそう言い聞かせていた。




「────ジェイ?」
突然、空から声が降ってきた。
目を開けると、膝に手を付いた格好でアイシェが覗きこんでいた。
「こんなところで寝ていたら、風邪ひいちゃうよ?ほら」
頬が冷たくなってる、と頬にそっと触れた。
柔らかく温かい感触がジェイの頬をくすぐる。
トクンと胸が跳ねたような気がした。
最近気づいたことだが、アイシェは誰にでもこうだ。
見返りのない優しさを分け隔てなく振りまく。
考えなしだ。
とジェイは思っていた。
アイシェのこういう他意のない優しさのせいで、クルーのうちの半数近く、特に若い乗組員達は「自分に気がある!」と騒ぎたて、大騒ぎになっているという。
男だけのむさ苦しい生活に突然舞い込んできた少女だ。
アイシェがいるだけで生活が華やかに潤い、その上優しくされればそんな錯覚に陥るのも無理はない。
その事に本人は全く気づいてないのが厄介だ。
確かにアイシェに他意はないのだろう。
自分が育った村で、祖父や村人がしてくれたことをただやっているだけなのだ。

「…俺、寝ちまってたのか?」
そんな事を考えながら、ジェイはぼんやりと聞いた。
「うん。よく寝てたよ?」
アイシェが長い髪に手を当てながらにこりと微笑む。
料理当番達と一緒に甲板でジャガイモを剥くアイシェの姿を眺めながら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
心地よい太陽の日差しと、海から吹く風にハンモックを揺らしながら、風になびく洗濯物のように心地よい眠りに誘われたようだ。
「もうジャガイモは剥けたのか?」
「見てたの?とっくに剥けたよ。料理長さんが今、厨房でお料理してくれてるよ」
そう言ってアイシェは持っていた布をスッと突き出した。
「汗かいてる」
薄っすら額に汗をかいていた事に気づくと、差し出された布をアイシェから受け取り、額の汗をぬぐう。
「風が気持ちいいね」
そう言って傍らで、アイシェは気持ち良さそうに目を閉じた。
長い髪がなびき、風に乗ってほのかに甘くいい匂いがする。
「ここの生活には慣れたか?」
「うん。みんないい人ばかりね!毎日がとても楽しいよ」
そう言って嬉しそうに笑う。
今までほとんど村の外に出ることのなかったアイシェにとって、ここでの生活は見るもの全てが珍しく新鮮で、分からないことは積極的に聞いていた。
毎日が楽しくてしょうがない様子が全身から伝わる。
血色もよく、表情がとても明るい。
「でも、もう少しでみんなとはさよならしなくちゃいけないんだよね?」
小さく呟くと、寂しそうに目を伏せた。
明後日にはここを立つ予定にしている。
ここにいられるのもあと二晩だ。


アイシェに焦がれ同行したいと志願するものもあったが、それは丁重に断った。あまり大人数では目立つ。
それにジルやリリの他には、ファントムやアイシェの力について話していない。
村に行ったところで、よその者が村人に受け入れられるかどうかも謎だ。
同行するジェイでさえ送り届ければそれで最後────という可能性が大きい。


「ジェイ」
「ん?」
「ありがとうね」
アイシェが笑った。
「何だよ、突然…」
そんな事を言われるなんて思いもしなかったので、目を丸くしてアイシェを振り返った。
「あの時ジェイが連れ出してくれなかったら、私きっとあのままだった。今頃、どこかの異国の地で売られていたかもしれない。
二度目に攫われた時だって…。正直、助けに来てくれるなんて思わなかったから、すごく嬉しかった」
「あれは…。
俺のせいで捕まったんだから、当然だろ?」
「でも、放っておくこともできた。なのに助けに来てくれたでしょう?
嬉しかったの。とても。だから…ありがとう」
アイシェが嬉しそうに笑った。
しっかり目を見て笑う姿に、思わず目を細める。
彼女の背に照り返す陽の光が妙に眩しい。
こういうのには慣れてない。
妙に胸の奥がざわざわする。
ジェイはその気持ちをごまかすかのように、ガッと頭を掻いた。
真っ直ぐな瞳に負けそうになる自分が情けない。

「そうだ」
話の腰を折るように口を開く。
どうもこういう雰囲気は苦手だ。
「これを渡そうと思ってたんだ」
そう言って、腰元の革ベルトに吊り下げてあった一本の短刀を手に取り、そのままアイシェに握らせた。
「────これは?」
「ラグナが使えない今、身を守る物が必要だろ?見たところ、剣や弓は使えそうになさそうだし、これが一番てっとり早いかと思ってな。俺が昔使っていたものだけど、手入れは怠ってないからちゃんと使えるはずだ」
「いいの?」
「ああ。古いもので悪いけど、使ってくれ」
「ありがとう…。大事にする」
アイシェは嬉しそうに短刀を握りしめた。



「────ジェイ!アイシェ!!」
ここにいたのかと、息を切らしながらエドが駆けてきた。
「どうした?」
「ジルさんが呼んでる。話があるから来てくれって」
「おっさんが?」
何の話だか、思い当たる節がない。
さしずめこれから先の話だろうか。
ジェイとアイシェは顔を見合わせて、首をかしげた。









「よお。荷造りはできたか?」
船の操縦室にジルはいた。
煙管をくわえ椅子に腰掛けたままテーブルに足を投げ出し、まるで緊張感が見られない姿だが、その風体はずいぶんこざっぱりしていた。
初めて会った時はまるで浮浪者のように、ボロボロの身なりにぼさぼさの髪、無精ひげをはやして、見るからに小汚いおやじだった。
それがカリビアンから戻ってから髪を短く切り、ひげも剃り、服装もちゃんと整えるとそれなりに見られる格好になった。
今まで無造作に伸ばした髪とひげとに隠れていてよく分からなかった顔立ちは、想像していたよりも整っており、彫りの深い貫禄のあるしっかりとした顔立ちをしていた。
深い海の色のような蒼とも緑とも取れる瞳の色が、一層ジルの風貌を引き立てる。
もう少し若い頃は、それなりに格好が良くもてたのだろう。
実際、思っていたよりも若く見え、今のままでも十分に魅力的だ。
少々豪快で無神経なのが玉に傷だが。

「荷造りも何も…旅をする為に出てきたわけじゃねーからそんなもんねーよ」
そう言いながらジェイは、後からついてきたアイシェを部屋に入れると扉を閉めた。
「話って何だよ?」
「まぁ座れや」
ジルが促すままに、そこにあった椅子にふたりは腰かけた。
「旅立つ準備が出来たところで悪いんだがな、嫌な知らせだ」
そう言うと、端の欠けた皿に灰を擦りつけ煙管の火を消した。
遠まわしな事が嫌いだというジルの話は、いつも前振りがなくストレートだ。
「嫌な知らせ?」
「そうだ。リリ、地図を貸せ」
「はい」
ジルに促されリリは持っていた地図をテーブルの上に広げた。
所々破れたりしみがあったりする使い込まれた地図だ。

「これはランバルディアの陸図だ。今わしらがいるのはここ、大陸の北の端トロイ。予定では明後日坊主達は、ここから南下し、クロスロードを通って風の渓谷に入る予定だったな。」
ジルが火の消えた煙管で地図の上をなぞった。
「あれ…この地図…」
「ん?地図がどした?」
「あ…。ううん、何でもない。気にしないで」
アイシェは苦笑すると話を続けて、とジルに言った。
そうか?と、ジルは首を傾げると、さも気にする様子もなく話を続ける。
「それがな、さっき入った情報によると、この陸路が取れなくなりそうなんだ」
「どういうことだ?」
ジェイが地図から顔を上げ、アイシェが心配そうにそれを振り返った。
「トルハーンだ」
「トルハーン!?こんな季節はずれにか!?」
ジェイが声を上げた。
「何?」
聞き慣れない言葉に、アイシェが不安そうにふたりを見上げる。
「竜巻のことだよ。大陸の西に砂漠があるだろ?その砂漠から吹く風によって年に何度か竜巻が発生する。砂漠から東に向いて竜巻の通り道ができるから、ちょうど俺達の通る予定だったクロスロードはその真っ只中ってわけだ」
「その後トルハーンはそのまま東へ抜けて、リカン山脈にぶち当たってその後勢力を落とし、消えるってわけだ。ってことは、リカン山付近を通過するまで、その周辺には近寄れねーって事だ」
「今回の通過予定時間はどれくらいになるんだ?」
「仕入れてきた情報によると、ひと月近いらしいぜ?」
「ひと月!?」
ジェイが声を上げた。
「今回は季節はずれな上、規模が馬鹿でかい。その影響ですでに中間地点のセントラルの街は避難警告が出ているらしい。クロスロードの封鎖はまだだが、時間の問題だな。今ロードを渡っている奴はそのまま渡らせるだろうが、これからって奴は立ち入らせないだろうな」
まいったなぁと、ジェイは頭を掻いた。
これではひと月足止めを喰らったのも同じだ。
風の渓谷まで陸路で行くなら、クロスロードを通るのは必須だ。
西の砂漠を通っても抜けられはするが、普段の気候のいい時でさえ砂漠超えは危険であるのに、トルハーンが来ている今は足を踏み入れる事さえ不可能だ。


「後は海路で行くか、だ」
ジルが言った。
「だけど…」
言葉を濁す。
「坊主の言いたい事は分かってるよ。海路は他に逃げ道がねぇからな。襲われた時の事を考えたら、船での移動は危険極まりねぇ。そりゃあ陸路で行くのが一番早いし、逃げ場がある分安全だ。
だが今回のトルハーンが引くのはひと月以上先だ。わしはお前らにゆっくりしてもらうのは一向にかまいやしねぇが、あんまり一所に長くいるのも危険だろ?どうする?」
アイシェが不安そうに見上げた。
ひと月といったらかなり長い。
海超えをする事を考えるとこのままここにいた方が安全かもしれないが、早くアイシェを送り届けてやりたいし、指輪からも解放してやりたい。
今のところ指輪の影響はラグナが使えない事だけではあるが、他に害がないとも言い切れない。
この先何があるか分からないのだ。
そんなものはさっさと取り外してやりたい。

「航路だとどれぐらいかかる?」
「この時期じゃあ、ざっと見積もって7日ってとこか」
ジルはリリが持っていた海図を広げて言った。
「いや、待てよ。この時期、季節はずれのトルハーンの影響で、海が荒れるはずだ。いつもの倍はかかるかもなぁ」
「ってことは14〜5日ってとこか」
「そんなところだ。でもまぁ、それでもトルハーンが過ぎるのを待って陸路を取る事を考えたら半分以下だ」
ジェイは考え込む。
「一晩考えてみるよ」
「まぁ、そんなに答えを急ぐことはないだろ。嬢ちゃんとも話してゆっくり考えな」
そう言ってジルは掛けていた椅子に深く座りなおすと、持っていた煙管に再び火をつけた。


「そうだ」
ジルが思い出したように口を開いた。
「坊主、ちょっといいか?」
操縦室を出ようとしていたジェイを呼び止める。
「まだ何かあるのか?」
「ああ、ちょっとな。坊主だけ残ってくれるか?」
「?」
不思議そうに首を傾げるアイシェをリリが背中を押して外へ促すと、そのまま一緒に出て行った。
操縦室にジェイとジルだけが残される。
「何だよ?アイシェがいたら言えない話か?」
「嬢ちゃんのことで、ちょっと気になる話を小耳に挟んでな」
「?」
ジェイは首を傾げた。






>>To Be Continued




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