RS FANTASY

りくそらたのファンタジー小説おきば。
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LOVE PAHNTOM第2章 ファントム-9-  
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第2章 ファントム-9-

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海の男達の夜は長い。
毎晩浴びるように酒を飲む男達は、いつも夜が明ける頃まで飲んでいた。
この日も明け方近くまで飲み続け、うっすら東の空が白む頃にはほとんどの男達が酔いつぶれ、いびきをかいていた。
その頃を見計らうかのように、宿の扉が開き小さな人影が顔を出した。
キョロキョロと辺りを見渡し、誰もいない事を確認すると小さな荷物を手に小走りで飛び出す。
足の向く先には港がある。
この日は朝早くに帝国行きの船が出港する予定だった。



「どこにいくつもりだ?」
突然の声に、弾かれたように小さな影が身を縮めた。
恐る恐る振り返ると、建物の切れ目にもたれかるように突っ立った長身の人影があった。
誰もいない事を念入りに確認したつもりだったのに、いつからそこにいたのだろう。全く気付かなかった。
「どこに行くつもりだ、アイシェ」
影がもう一度聞いた。
壁にもたれた体がゆらりと動き、月明りにその表情を映す。
「…ジェイ───」
見知った顔を確認すると、ホッとしたようにアイシェは胸をなで下ろした。
しかし安堵に緩んだ顔が、すぐに眉根にしわを寄せた。
ここでジェイに会うのは都合が悪い。
「…少し、夜風に当たろうかと思って…」
大きな翠の瞳を宙に泳がせながら小さく呟いた。
「こんな時間にか?」
「…眠れないの」
「わざわざ着替えて?」
「人にあったら恥ずかしいでしょ?」
「荷物も持って行かないと恥ずかしいのか?」
「……」
痛いところをつかれ、慌てて荷物を背に隠すがもうすでに遅かった。
見透かすようなジェイの視線が突き刺さり、思わず顔を逸らす。
それを見たジェイが大きなため息を漏らした。
「おっさんが言ってたのはこれか。アイシェが不審な動きをしてるって」
「不審な動きって…そんな…」
已然、視線をそらしたまま下を向く。
まともにジェイの顔が見られない。
「最近やたらと定期船の時刻や行き先を調べたり、各地の街の様子を聞いて回ったりしてたみたいだな。
どうもうさん臭いと思ったら、こういう事だったのか」
ジェイが呆れたように言葉を吐いた。
丁寧な物言いだが、言葉の裏に見え隠れする苛立ちは隠しきれない。
「最初からひとりで行くつもりだったのか?」
その言葉にアイシェは持っていた荷物をぎゅっと握りしめた。
返す言葉が見つからない。

「そんなに頼りにならねぇのか、俺は」
「───違、っ…!!」
そんなつもりじゃなかったと、出掛かった言葉がグッと詰まる。
顔を上げた瞬間、ジェイと視線がぶつかり、ドクンと心臓が跳ねた。
苛立ちを押し殺した表情で真摯に見つめるその瞳は、嘘なんて簡単に見抜き、胸のうちまでも全て見透かしてしまうような鋭い眼差しをしていて、それ以上言葉が続かなくなった。
適当に言い繕って逃げるなんてできそうにない。

「そうだろ?俺を頼りにできないからひとりで行こうとしたんだろ?」
「違う…っ」
「じゃあ何だ?どうして黙ってひとりで行くんだ」
「…だって…。もうみんなに迷惑はかけられない。
私がいたら、石があったらまた狙われる。危険な目に合う。誰かが傷つくのなんてもう見たくないの。だから…」
「だからひとりで行くのか?」
アイシェはゆっくり頷いた。
「村に帰るだけだから大丈夫。心配しないで」
心配をかけないように笑ってみせる。
それを見てジェイが、ハッと乾いた笑みを漏らした。
「村に帰る気なんてないんだろ?」
その言葉に、弾かれたように顔を上げる。
「どうして…」
「行き先はテリウスか?
やたらと考古学者がいるところはどこだとか、文献があるところはどこだとか聞きまわっていたみたいだな」
「…あ…」
この人には敵わない、アイシェは思った。
何も考えてないように見えていつもこうだ。
自分のひとつ先を読む。
ジェイと一緒にいると胸のうちを全て見透かされているようで、息苦しくなる。

「ひとりで何とかなると思っているのか?武器もろくに使えず、ラグナも使えないのに。
村に帰るんじゃなかったのか?みんな心配しているんだろ?あれだけ帰るのを楽しみにしてたってのに…」
「────だって!!」
ジェイの言葉を遮るように、アイシェは重い口を開く。
「だって…っ。
私が帰ったら、今度は村が狙われるかもしれないんだよ?おじいちゃんが…村の人があんな目に合うのなんてやだよ…。それが分かってるのに平気な顔で村に…帰れないよ…」
表情が歪む。
ひとりでここを出ると決めた時、もう二度と泣くまいと思った。
大好きな祖父を。
故郷を傷つけたくはない。
自分さえ村に帰らなければ、祖父や村を危険な目に合わせなくてすむ。
心より心配してくれてるであろう人達を裏切るような形になっても、それでも無事に元気でいてくれるのならそれでいい。
そう決めたばかりなのに。
故郷の事を口にすると押さえていた思いが簡単に溢れ出してしまう。
涙をこらえるように、アイシェは下を向いて唇を噛み締めた。
震える体を悟られないように、ぎゅっと掌を握りしめる。
ふいにその手が握られた。


あ、と思った瞬間。
腕が引かれ、鼻先に何かが触れた。

    
「…───っ、ジェ…イ!?」


突然の出来事にアイシェは瞳を何度も瞬かせた。
気がつけばジェイの腕の中に自分の小さな体がすっぽりと覆われていた。
「ジェイ…?…何で…───」
ドクリ、と胸が鳴った。
男の割には華奢だと思っていたジェイの体は、想像以上にたくましく、自分の体とは全く違う造りをしていた。
昔よく抱きしめてくれた祖父の腕とは明らかに違う、ゴツゴツとした力強い腕の中に自分がいて頭の中が真っ白になった。
何でこんな状況になっているのか訳が分からない。
トクンと跳ねた心臓がざわざわとザワメキ立つ。
こういう感覚は初めてで、息がひどく苦しくなった。
どうしたらいいのかわからなくなり、ただ苦しさから逃れようと腕を伸ばす。
「…離し、て…っ」
声が震える。
「放したらひとりで行くんだろ?」
ジェイから微かにアルコールの匂いがした。
そういえば、今宵もジルたちと酒の席を囲んでいたのを思い出す。
「…酔ってるの?」
「酔ってなんかねぇよ」
「うそ。お酒の匂いがする」
「酒は飲んだけど、酔ってない」
「じゃあ…どうしてこんなことするの?…放して…っ!」
突っぱねたつもりが、きつく抱きしめた腕はびくともしない。
抱えていた荷物がぽすんと地面に落ちた。
「…あ」
それに一瞬、気を取られた瞬間。
ジェイが体をずらし、そのままアイシェの首元に顔を埋めた。



「────ジェ…っ!!」


首筋に吸い付くような感覚に、思わず声を上げた。
身をよじってその体を突き放す。
一瞬、離れかけた体は簡単に引き戻され、耳元に息が触れた。
「…ジェイっ…!!」
ゾクリと体を震わせ、身を固くする。
「ひとりで旅をするってことはな、こういう危険性とも隣合わせだ。そういうのをちゃんとわかってんのか?」
耳元でジェイが呟く。
「何も魔物だけが、危険なんじゃねぇ。一番危険なのは人間なんだ」
吐き捨てるように呟いた。

ジェイの言葉は痛いほど分かる。
分かってるつもりだった。
村を出てからアイシェを襲ったのは魔物ではなく人間だった。
憎悪や殺意、欲望をむき出しにした人間はどんな魔物より物の怪よりも恐ろしい。
人間ほど己の欲望に貪欲で、それを実現するためなら何を犠牲にしても平気でいられる。
そんな傲慢な生き物は他にはない。
それを身をもって体験した。
そのつもりだった。


「ましてやアイシェは女だ。
今の世の中、女の一人旅がどんなに危険か分かってんのか?」
怒りと苛立ちを込めた声が、アイシェに降りかかる。
責めているのではない。
心配しているからこそ、こんなに必死になって止めてくれている。
それは痛いほどわかる。
でも。

「どうして…?
───どうしてジェイは私にここまでしてくれるの?」

アイシェには理解できなかった。
ジェイは見ず知らずの自分を身を呈して助けてくれた。
まだ出会って数週間にもならない他人に等しい自分を。
そこまでしてもらう理由がどこにあるのだろう。
考えれば考えるほど分からなくなり、幾度となく不安に飲み込まれそうになった。
頼るものもなく、まるで行き先の見えない暗闇にでも放り出されたような状態の自分に優しく手を差し伸べ連れ出してくれた。
その手が、いつか離れて行ってしまうのではないかという恐怖。
大事であればあるほど失くした時の喪失感はかなりのものだろう。
それにもともとこの手は、自分に差し伸べられるべきものではない。
セイラの隣にあり、彼女を守るべき為にあった手を、自分が奪ってしまったのではないかという罪悪感がいつも追いかけてくる。
苦しいという悲鳴が心の奥で声を上げる。
指輪や石の事を知った後も、迷わず自分と一緒に行く事を選んでくれたジェイ。
何の関係もないのだから放っておけばいいのに、なぜわざわざ危険な道を選んだのか分からない。
早くジェイを解放して、自分もこの気持ちから解放されたい。
そう思っていたのに────。


「わからねぇか?」
ビクリとアイシェは身を堅くした。
「ジェ…っ!?」
抱きしめていたはずのジェイの左手が、アイシェの腰元を弄った。
「何…っ?」
力いっぱい胸を突き放すが、びくともしない。
男のジェイに力でかなうはずがない。
アイシェは歯がゆい思いで唇を噛んだ。
「ジェイっ、やめて…っ!!」
抱きしめた両腕を力いっぱい突き放そうとした時、片手に何かを握らされた。

「───な、に…?」

掌に触れた固く冷たい感触に身をよじるのをやめて、それを視界に入れた時。
ドクリ、と心臓が突き上げられた。
嫌な汗が体を流れる。

「嫌ならそれを使って逃げろよ?」

思わず息を飲んだ。
手に握らされたそれは、ジェイがずっと大事に手入れしてきた古い短刀。
護身用にと手渡してくれたものだ。
それをアイシェの腰元から抜き取り、その手に握らせた。
「ひとりで行くつもりなら、それぐらいできるだろ?」
そう言って自分の懐から長い麻布を取り出すと、短刀をアイシェの手にくくりつけた。
その過程は素早く鮮やかで、ジェイの手先の器用さを物語る。
「ジェイ、やめて…っ!」
短刀から鞘を抜き取った。
よく手入れされ磨かれた刃が、月明りを照り返しキラリと光った。
剥き出しの状態で手に握らされた短刀の刃は、少しでも動くと密接しているジェイの体を簡単に傷つけそうだ。
激しく鼓動が脈打ち、嫌な汗が流れ落ちる。
刃先が気になって思うように動けない。



「────人を殺すぐらいの覚悟、出来てるんだろ?」


ジェイが耳元で囁いた。



「ジェイっ…!!」
思わず悲鳴を上げた。
ジェイの言う通りだ。
それぐらいの覚悟がなければ、この先ひとりでは生きてはいけない。

────それが出来ないなら諦めろ────。

そう言ってるのだ。




短刀を握る手が震えた。
「…ジェイ、っ…やめて、お願いだから…っ」
耳元に首筋に、唇の生暖かい感触が落ちる。
挑発するかのようにアイシェを腕の中に閉じ込めて、その体に手を這わす。
抱きしめたその腕で上着の裾から手を滑り込ませ、指先が直に肌に触れた。
体の線を確かめるように指を沿わせ、上まで這い上がってくる。
その感触にぞくりと全身が震えた。
少しでも体を動かせば、刃がジェイの顔を掠めて傷つけてしまう。
こんなのはイヤだと思うのにどうにもならない。
歯がゆさと悔しさが込み上げてきて、涙が溢れた。
ジェイの事は嫌いではない。
でもこんな理不尽な行為は嫌悪してしまう。
簡単に力で抑え込まれてしまう自分の非力さが、たまらなく悔しい。

「イヤだっ、ジェイ…!!やめて…っ!!」

涙に訴えてもジェイはやめようとしない。
自分で何とかしなければ行きつくところまで行く勢いだ。
「…っぁ…!」
熱を帯びた指先が柔らかな胸の膨らみに辿りついた。
指先でその丸みをなぞるように確かめ、そっと丘を登る。
ビクリと体が跳ねた。
アサシンのアジトで、ローグが体に触れてきた感触を思い出した。
その瞬間、鳥肌が立ち、嫌悪感が背中を駆け上がった。
「短刀を使えよ。でないと…」
耳元で囁く声。
固く閉じていた瞳を開くと、息が触れるか触れないかの距離にジェイの顔が見えた。
深く澄んだ瞳の蒼が試すようにキラリと光を反射する。

「…いや…」

大きく首を横に振る。
傷つけたくはないのにどうしようもない。
そうでもしないと止まらない。
言葉だけでは伝わらない。
試されているのはわかっているのに────。

涙が溢れる。
どうして自分はいつもこの人を傷つけてしまうのだろう。
いつも全力で助けてくれるこの人を、なぜ傷つける事しかできないのだろう。


どうして────。




手のひらが胸の膨らみを探り、唇が重なるか重ならないか程の距離まで顔を寄せた。
傷つけたくない気持ちとは裏腹に、体を押しやる腕と短刀を握りしめた掌に力が入る。
「…やめて…っ…ジェイ…っ!お願いだから……あ…ッ…」
熱い手のひらが胸の膨らみを覆い、押し潰すようにその房に触れた。
ゾクリ、と。
その感触に身を震わせ、声を上げる。

「…っ、んふぅ…───ッ」

その瞬間。
唇に熱い感触が触れて、言葉が塞がれた。




頭の中が、真っ白になった。









気づいた時には、その場に呆然と突っ立っていた。
力なく降ろされたその手から麻の布が解け、縛り付けられていた固いものがカランと音を立て地面に転がった。
乾いた音が建物に当たり反響する。
真っ白な頭でぼんやりとそれを見つめると、真っ赤な色が瞳に飛び込んできて記憶を鮮明に呼び覚ました。





「───っ、私…!!」





アイシェは雪崩れるようにその場に座り込んだ。
涙が溢れ、パタパタと頬を伝い地面を濡らす。
無我夢中で突き飛ばした瞬間、研ぎ澄まされた刃先がジェイの頬をかすった。
人を。
ジェイを傷つけた感触が刃から伝わって、アイシェの心を抉る。
恐怖と罪悪感が体中を駆け抜けた。
溢れ出した涙が頬を伝い、止まることなく流れ落ちる。
手の震えが止まらない。

「…っ…ひっ……っ」
嗚咽が漏れる。
涙が頬を伝い地面を濡らす。
ジェイは頬から流れた血をぬぐうこともせず、無言でアイシェに歩み寄った。
そのままうな垂れるように地面に座り込んだアイシェの腕を掴み体を起した。
掬われるような形で顔を上げたアイシェは、しゃくりあげるようにジェイを見つめた。
無我夢中で押しやった拍子に掠った短刀が、ジェイの左頬を傷付けていた。
今すぐにでも癒しの術を使えば、傷には残らならないだろう。
だがラグナが制御されてる状態のアイシェには、それすらできなかった。
本当に今の自分は無力だ。


「短刀ひとつロクに扱えねぇのに、ひとりで行こうなんて無理なんだよ」


ジェイが吐き捨てるように言った。
「────これは預かっておく」
腕がアイシェの胸元に伸ばされた。
「…だ、ダメっ…!!」
制止の声も聞かず、胸元から巾着型の袋を引きちぎる。
ブチッと紐の切れる鈍い音がして、それはアイシェから奪われた。
全ての元凶ともいえるファントムの入った袋。
生まれてから一度も手放したことなんてないのに。
「これがなければ狙われることもないし、ひとりで行くこともできねーだろ?」
「────や…っ、ジェイ…っ!!」
止める声も聞かず、ジェイは背を向けた。

石を取り返したいのに、足が動かない。
走り寄ってごめんなさいと、傷つけた事を謝りたいのに声がでない。
アイシェはただ、糸の切れた操り人形のように地面に座り込んで、その姿を見送る事しかできなかった。
ずっと自分を守り助けてくれた、いつも優しく手を差し伸べてくれたジェイを自分は裏切り、傷つけた。
そう思うと溢れ出した涙が、いつまでも止まらなかった。






>>To Be Continued


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