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りくそらたのファンタジー小説おきば。
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LOVE PAHNTOM第2章 ファントム-10-  
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第2章 ファントム-10-

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「────何が神の石だ…ッ」
ジェイは吐き捨てるように呟き、手にした小さな袋を握りしめたまま壁に打ち付けた。
やり場のない、やり切れない気持ちをそれにぶつけるしかなかった。
これがなければアイシェはひとりでどこへも行けないだろう。
全ての元凶ではあるが、それでも彼女にとっては生まれたときから肌身離さず持っていた大事な石だ。

何も告げずに黙って出て行く事を決めたアイシェ。
彼女なりにいろいろ考えた結果だというのはわかっていた。
あんなに小さくて非力な少女が、故郷を捨ててひとりで生きていくと決めるにはそうとうな覚悟が必要だっただろう。
それにアイシェは、村を捨てたのではなく、守ろうとしたのだ。
それをわかっていながらも自分を頼りにしようとしないアイシェに、ひどく苛立った。
アイシェを傷つけるつもりなんてなかったのに。
ただひとりで行かせたくない。
ひとりで生きていけるはずなんてない状況をわかってほしかった。
抱きしめて一緒に行こう、と。
俺を頼りにしてくれ、と。
ただそう言えばよかったのに苛立つ気持ちが先立ち、大事にしたい気持ちとは裏腹にアイシェを女としての弱い立場に追い込み傷つけてしまった。
「…ちきしょう…っ」
手のひらで握りしめられるほどの小さな石は、まるで大きな運命に逃げ場がなく飲み込まれていく自分達のようだ。
そう感じずにはいられなかった。



「随分な荒治療じゃねーか」
路地を曲がると建物の壁に体を預けるようにもたれかかった姿で、ジルが腕組をして突っ立っていた。
「あれはないんじゃないですか?」
その隣で呆れたような表情で見上げる小さな頭が、ため息交じりで呟いた。
「…ったく。その盗み聞きの癖、直した方がいいぜおっさん」
ジルに聞かれるのはこれで3度目だ。
しかも今回はリリも一緒だ。
「あれじゃ嬢ちゃん、お前さんのことを怖がるんじゃねぇのか?」
ジルは口にくわえた煙管を離すと、白い煙を空に吐き出した。
「あれでいいんだよ…」
アイシェは無知で無防備で世間の怖さを何も分かってない。
ひとりで何とかなると思っている。
いや。
何とかならなくてもひとりでやろうとする。
必要としてくれるのならば、自分はいつでも手を差し伸べて助けてやれるのに。
アイシェはそれをしようとしない。
一緒に堕ちていく事を彼女はひどく恐れている気がする。

「大丈夫ですか?」
リリがそっと布を差し出した。
「え…?ああ」
一瞬、何の事か分からず思い返すように思考を巡らせて、それが頬の傷のことだと思い出しジェイは肩をすくめて頷いた。
「掠っただけだ」
傷の事なんてすっかり忘れていた。
受け取った布を頬に当てると湿った感触が傷に沁みて、初めて痛みを感じた。
「後で船医に見てもらうといい。たいした傷じゃねぇみてーだが、顔だしな。傷になるといけねぇ」
「別にいいよ」
たいした傷じゃない、とジェイは付け加える。
「まあ、戦った傷なら男の勲章として貫禄に変わるんだがなぁ。女に付けられた傷とあっちゃぁそうはいかねぇだろ」
くくっと失笑する。
「ほっとけ」
そう言ってジェイは布で傷口を押さえた。
じわじわと痛みを増す傷は、あの時の全力で自分を拒否したアイシェの表情を思い起こさせる。
抱きしめた線の細さや、直接指で触れた柔肌の感触。
ほのかに香る甘い匂いや小さく上がった声。
唇で触れた柔肌や唇。
息を吹き込むために初めて触れた冷たい唇とは違う、生のある柔らかで甘い感触。
思い出すだけでも体の奥が熱くなってたまらなくなる。
あの時、アイシェがああしてくれなければきっと止まらなくなっていただろう。
自分がここまで我慢できない性質だとは思わなかった。
とてつもなく惨めで厭らしい人間に思えて嫌になる。
「…理性が吹っ飛ぶとこだった」
ジェイは頬の傷を乱暴にぬぐった。
布に血の跡が付く。
「若いねぇ〜」
口笛交じりにジルが苦笑した。

「リリ」
「はい?」
「悪いけど、アイシェのところへ行ってやってくれないか?」
きっと今もまだ、あの場で座り込んでいるだろう。
いつまでも泣いている彼女の姿が容易に想像できる。
夜の街にそのまま残して来る事を躊躇ったが、どうしようもなかった。
これ以上アイシェの側にいたら、また酷い言葉を投げつけて、傷つけてしまう。
抱きしめたらそのまま歯止めが効かなくなってしまいそうで、怖かった。
「言われなくてもそうするつもりですよ」
ため息混じりに呟くと、リリは灰色の髪を翻した。
髪の色とは対照的で鮮やかな山吹色のリボンが風に揺れる。
「…相変わらずキツイな」
まだまだ子どもである年齢なのに、ひどく冷めた印象のリリィ・ロンは、自分なんかよりも随分大人に見える。
自分が生きた半分の年数も生きていないのに。
彼女が行ってくれるのならアイシェは大丈夫だろう。
ホッと安堵に胸をなで下ろす。


「で、どうするつもりだ?このまま船で行くのか、トルハーンが通り過ぎるのを待つのか」
「海路を行く。西行きの船があっただろ」
「ああ。昼の便だ」
「早いほうがいい」
「海路は逃げ道はねぇからなぁ。あの嬢ちゃんも海の上では逃げようとは思うまい。いっそうの事、紐でもくくり付けておくか?」
そう言ってジルはガハハと笑う。
本当にやりかねないので笑えない冗談だとジェイは思ったが、あえては口に出さなかった。
「じゃぁとっとと準備を始めるか」
「何のだよ?」
ジルの言葉にジェイは眉を寄せた。
「何ってしばらく留守にする訳だからよ、いろいろと準備ってもんがあるだろ?」
「まさか…」
「わしも行くぜ?まさか置いて行くつもりだったんじゃねぇだろうなぁ?」
ジルはそう言ってにやりと笑った。
賑やかな航海になりそうだが、その方が都合がいいかもしれない。
アイシェも安心できるだろう。









「どうぞ」
戻った宿の部屋で、リリがカップに入った飲みものを手渡した。
手元から白い湯気が上がる。
「温かいものを体に入れたら落ち着きますよ」
「…ありがとう…」
ほのかに漂う甘い匂いが鼻をくすぐった。
「ホットミルクです。山羊のミルクに蜂蜜を溶かしたものですから、甘くておいしいですよ」
カップを見つめたまま、口を付けようとしないアイシェにリリが説明を加えた。
ひどく顔がむくんでいる気がする。
恥ずかしくて顔が上げられない。

あの後リリは、雪崩れるように座り込むアイシェに言葉を掛け、宿まで連れて帰ってくれた。
泣いていた理由を知ってか知らずか、手際よく身の回りの手配し、必要な事以外は不用意に聞いたりしない。
湯浴みの用意をし、温かい飲み物を手渡し、アイシェを落ち着かせてくれた。
これではどっちが子どもなのか分からない。
この年でテリウスの海軍将校の片腕と呼ばれる彼女だ。
アイシェの比ではないくらいにいろいろな経験をしてきたのであろう。
自分よりもはるかに聡明でしゃんと前を向くリリを前に、自分がどれだけ子どもっぽいことをしてるかを考えると恥ずかしくなった。

「…じゃあ、今夜はゆっくり休んでくださいね」
もうすでに東の空が白んできている。
休むといっても横になる程度だろう。
身の回りのものを簡単に整えると、気遣うようにリリが部屋を出ようとした。
「…あ、リリさん」
思わず呼び止める。
「何か?」
「…あの…。ジェイ、は…」
あの後、どうしたのだろう。
傷は平気なのだろうか。
彼を怒らせてしまった自分には心配する資格もないのかもしれない。
それでも気になってしょうがないのだ。
「彼は大丈夫ですよ。船医に見てもらうように言ってますから。たぶん跡に残る事はないでしょ」
「そう…」
よかった、と胸をなで下ろす。
ふと顔を上げると扉の前で突っ立ったまま、リリがじっとこっちを見ていた。
「リリさん?」
「これを」
そう言うと、リリは頭に結んであった片方のリボンをシュルリと外しアイシェの前に突き出した。
「なに…?」
「気になるようでしたら、使ってください。…じゃ」
そう言って小さく笑うと扉を閉めて出て行った。
「気になるって…」
なんのことだろう、と小首をかしげる。
思い当たる節がない。
リリを扉の向こうに見送った後、寝台の横に置かれた山吹色の鮮やかなリボンを横目にしながら、手にしていたカップに口を付けた。
「…美味しい…」
ほのかに甘く温かな液体が喉を通り、緊張していた体に染み渡る。
心まで溶かしてくれる、そんな感じがした。
気持ちも次第に落ち着いてくる。
気がつけば窓の外から眺める景色は、夜が明け、すっかり東の空が白んでいた。
鴎が鳴く声が海の向こうから聞こえる。

ふと。
アイシェは寝台の横の壁に備え付けてある鏡を覗き込んだ。
「ひどい顔…」
鏡に映る自分はひどく泣きはらした顔をしていた。
目は赤く充血し、ひどく腫れて、頬までむくんでいるような気がする。
随分泣いた。
もう泣くまいと決めていたのに、涙が止まらなかった。
「しっかりしなきゃ」
アイシェは頬をぺちぺちと叩いて、自分に言い聞かせるかのように呟いた。
涙と潮風で体がひどくべたべたする。
頬には髪が張り付いたままだ。
「湯浴み、しようかな」
リリが気を利かせて、湯を用意してくれている。
部屋の隅に置かれた盥からほのかに湯気が上がる。
立ち上がり髪をそっと手で払おうとした時、ドクンと胸が音を立てた。
手が止まる。

鏡に映るひどい顔の自分。
泣きはらしてひどく浮腫んだ顔を下へそっと辿ると、首に残る小さな赤い跡に指が触れた。
凹凸もなくただ、肌の内側から充血しているような赤み。
軽く擦ってみるが取れそうにない。

「…これ…────」

ドクンと胸の奥が悲鳴を上げ、動悸が激しくなる。
ジェイに抱きしめられた時、首筋に強く吸い付くような感触があったのを覚えている。
それがこれだ。
リリが自分のリボンを手渡してくれたのはそういう意味だったのだ。
跡が気になるのであれば、リボンを首に巻くといい。
そういう意味で手渡してくれた。

カーッと体中が熱を帯びたように熱くなった。
長い髪に隠れない位置ではない。
でも髪を払ったり風が吹けば、すぐに見えてしまうだろう。
どこかにぶつけたとか、虫に噛まれたとか。
そういう言い訳が通用しないぐらいに、それは鮮明に跡を残していた。

────ジェイが触れた証────。

どうしようもないくらいに胸が疼く。
たまらなくなって思わずその場に座り込んだ。



ジェイがわからない。
会って間もない他人に等しい自分に、どうしてそこまでしてくれるのか。
もうこれ以上傷つけたくなくて離そうとした手を、彼は離してはくれなかった。
もうこんな苦しい思いは嫌なのに────。


祈るように胸元を握ると、いつもそこにあるはずのものがない事に気付く。
ジェイが引きちぎって持って行ってしまった麻の巾着。
手もとから奪われた石は、今もジェイの手元にあるのだろう。
それはまるで自分の心のような気がして、アイシェは疼く心を抱きしめるように自分の体を抱きしめた。








>>To Be Continued



| LOVE PHANTOM 第2章 | 16:37 | comments(4) | - |
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きゃwwwっジェイってば!!
でもかっこいいですねwwwっもぉwww
アイシェってばうらやましいですわ
これからも楽しみにしてます♪
がんばってくださぁい!
| なつみ | 2007/05/10 19:52 |
★☆★なつみさんへ★☆★
あはは(笑)アイシェ、うらやましいですか〜。
なつみさんはいつもジェイの応援!?に力を入れてくださっているようなので、私としても頑張ってジェイをかっこよく!と気合が入ります(笑)
『まほコト』と違って書くのにすごく時間がかかってしまう話なんですが、できるだけ早いペースで続きを更新できたらと頑張ってます。以前にお待たせしていた頃よりは早いと思います(笑)また覗いてみてくださいね〜。
| りくそらた | 2007/05/11 08:36 |
最近更新がなくて寂しいです・・・
メッチャ気になるんでがんばってください!!
ナツミはこの作品「LOVE」です!!
| なつみ | 2007/06/03 00:46 |
★☆★なつみさんへ★☆★
ああっ。すみません〜〜(汗)
最近、こちらの更新ができてなかったですね。
「LOVE」だなんて・・・とても楽しみにしてくれているのがよくわかってとても嬉しいですーー!!近いうちにUPできるようにガンバリマス。
懲りずにまた覗いてみてくださいね!(苦笑)
| りくそらた | 2007/06/03 10:58 |









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