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りくそらたのファンタジー小説おきば。
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LOVE PAHNTOM第3章 月のない夜-7-
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第3章 月のない夜-7-

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アイシェは寝付けないで、部屋で横になっていた。
騒動で捕まったジルの様子を見に行ったまま、ジェイは戻ってこない。
遅くなるから先に部屋で休んでくれと言われていたが、気になって到底、横になんてなれなかった。
時折、部屋から顔を出して向かいの部屋を覗くが、戻る気配は全くない。
失敗して、ジェイやリリまで捕まってしまったのではないだろうか。
考えれば考えるほど、悪い方へと想像が膨らみ、不安が押し寄せる。
なぜか胸騒ぎがする。
アイシェは居ても立ってもいられなくなって、部屋着の上に薄いガウンを羽織り、そっと部屋を抜け出した。
夜も更けて、廊下には誰もいない。
向かいのドアをそっと叩いてみたが、返事はなかった。
やはり、まだ戻っていないらしい。
そのまま部屋に戻る方がいいのだろうが、そんな気にはなれない。
胸騒ぎがして、気持ちを掻き立てる。


アイシェは客室の立ち並ぶ短い廊下を抜け、甲板へと続く階段を登った。
ジルが連れて行かれたのは、おそらく船尾にある貨物室だ。
記憶の糸を辿りながら、おずおずと外へ続く扉を開けると、風がアイシェを吹き上げた。
あまりの強風に、吹き飛ばされそうになる体をぎゅっと抱きしめ、何とか足を踏ん張る。
外は漆黒の闇。
こんなにも夜の海は、暗く心細いものだろうか。
いつも自分の側にはジェイが居てくれたから、不安など微塵も感じたことがなかった。
暗くて足元が及ばない。
微かな光さえも届かない船の上は、まるで大きな口を開けた闇に、身体ごと飲み込まれてしまいそうな、そんな錯覚に陥る。
「…月……」
ふと、アイシェは空を見上げた。
そこにあるはずの月が存在しない。
「月が、ない…?
…ううん、違うわ…。今日は月の出ない、新月の晩なんだ―――」
ごくりと息を飲んだ。
月の光がない夜というのは、これほどまで光が及ばないのか。
こんなにも暗く、孤独な夜というのは初めてだ。
「…大丈夫。月があってもなくても、今の私にはラグナは使えないんだもの。どっちにしても、同じ…」
恐怖を振り切るように首を振って、アイシェは自分にそう言い聞かせた。



□ □ □


「―――嫌な風だ」
漆黒の闇の中で、ジェイが言葉を零した。
月のない今宵、頼れるものは船室から漏れるわずかな光のみ。
「…ジェイさんも感じますか?」
「ああ」
星ばかりか、空の全てをも覆い隠すような暗雲。
海の上だというのに、頬を撫でる風は奇妙なほど生暖かい。
ジルが言っていた“魔の海域”に足を踏み込んでいるというのは、嘘や冗談ではなさそうだ。
「考えナシのあの人でも海に関しては、誤ることがありませんから。野生の勘、というか…。誰よりも海を熟知している」
リリが溜息混じりに言葉を零す。
「…でも。少しは相談して欲しいです。対処の仕様が他にもあるのに。いつも後先考えずに動いて。後始末させられる私の身にもなってほしい」
「大変だな」
リリの言葉に、苦笑せざるを得ない。
「ええ。もう慣れましたけど」
淡々と告げると、リリは上着のポケットから一本の鍵を取り出した。
ジルが監禁されている貨物室の鍵だ。
連行された後、リリはその足で操舵室に向かい、巧みな交渉術で脱出の手段を手に入れた。
争うことなく話し合いで方を付ける。
その交渉術は、実に見事だった。
若くして海軍将校としてのジルの片腕まで昇進してきた、リリの実力が伺える。
「こうなる前に、迅速に対処したかったのですが。一応、他国の海の上ですから。事をおおっぴらにしたくないんです。
“軍服を脱げば、ただの一般人に過ぎない”。あの人の口癖です。権力を振りかざして…というのは、性に合わないんです。この場合、良くも悪くもってところですがね」
そういうリリも、船の上では軍用の上着を脱ぎ、身軽な服装であった。
背格好だけ見ると、ただの子どもにしか見えない。
「さっさと済ませて、戻りましょう」
振り返ったリリの眼前で、ブロンズの鍵がキラリと鈍い光を反射させた。



□ □ □



船尾にある貨物室の一番奥。
荷物に埋もれるようにして、柱に腕を縛り付けられた状態のジルを発見した。
側にある樽や木箱は蹴り壊され、苛立ちをぶつけた残骸が辺りに散らばっていた。
脚力のみで、ここまで壊せるものなのだろうか。
ジルの力は計り知れない。
見張りの者は、さぞかし恐怖であっただろう。
事を話してジルを手渡すように告げると、「助かったよ」と。
心底、安堵に顔を緩めていた。

「ちくしょう。きつく縛りやがって!このわしが縄抜けできないなんて、よっぽどだ!」
赤く跡の残る腕をさすりながら、ジルが顔をしかめた。
「こんな状況でないのなら、その腕を見込んでウチの隊に勧誘するんだが」
「そんな悠長なこと、言ってる場合じゃないでしょう?」
「わーってるって」
口調は冗談交じりだが、ジルの表情は真剣そのものだ。
普段の気のいいオヤジの雰囲気は、消えていた。
気合を入れるために、袖を肩まで捲り上げる。
右腕の鷹の刺青が力強く覗いた。
「今、どの辺だ」
「“ポセイドン”のポイントに踏み込む手前です」
「そうか…。“魔の海域”に踏み込んじまったか。わしの警告をとことん無視しやがって!」
思い切り眉根に皺を寄せて、ジルはチッと小さく舌打ちをした。
「…さっきも言ってたな、“魔の海域”って。それは何だ?」
入り口の扉に身体を預けて、二人の様子を伺っていたジェイが、堪らず口を開いた。
「…船乗りなら、知らないやつはいねぇ。
ランバルディア大陸と、テリウス大地の中央。南南西に位置するシーノートと呼ばれる海域。
そこには昔から、亡霊島が存在すると言われ、その海域に踏み込んだ船は、その島の何らかの影響で消息不明になる。もしくは、その乗務員のみが消えてしまう、という言い伝えがあるんだ」
「実際、調査に当たった数々の海軍の船が消息を経っています。真相が何かは究明されないまま、亡霊島を見つけられたのかすらわからない。港を出たきり、消息を絶ってしまうのですから、調査報告さえ手に入らない。
乗組員のみが連れ去られる場合は、“何か”を見たのだという説もあります」
リリが淡々と告げた。
苦い表情はおそらく、消息を絶った同僚を思ってのことだろう。
「怪奇現象が起こるのは、三つのポイントを結んだ三角地帯だ。今、わしらがいるのはここ。“ポセイドン”。軍艦岩のある地点だ」
リリが懐から取り出した白墨で、床にざっと海図を描く。
すでにここの海域は、ジルの頭に入っているらしい。
「そしてここが“ローレライ”、こちらが“ネプチューン”。
どれも神話に出てくる海神の名称です。最近新たにここ、“セイレーン”というポイントが見つかって、今では三角形でなく魔の四角形“トラペジアム”とも呼ばれています」
「…海域が広がったのか…」
「そうですね。三つのポイントを結ぶよりも、四つのポイントを結ぶ方が、数学的にも広がりは大きい」
チッと、舌打ちが聞こえた。
「まだ間に合う、引き返すべきだ。リリ。方は付いたのか?」
「迂回する方向で話は付いています。あと、ジル将校が解放され次第、舵を取る許可も」
「よし」
ジルは強く頷くと、手のひらに拳を打ちつけた。
「迂回するつもりなら、もう、大丈夫だろう?」
「ダメだ。あの海域に片足突っ込んだんだ。沈まないにしろ、何事もない、じゃ済まされねぇ。ヘタすりゃ、引きずり込まれるぞ」
「もうすでに、“舵が取られる。方位に狂いが見られる”の支障が出ています」
リリの報告に、ジルが苦い顔をして舌を鳴らす。
だから言わんこっちゃない、と。苦虫を噛み潰したような表情で、壁に拳を打ちつけた。
「アイシェは?」
「部屋に置いてきた。アンタの事、すげぇ心配してた」
「そうか…。
確かアイシェは、泳げないんだったな」
「海を見たのは、この旅が初めてだからな」
「じゃあ、後の事はわしらに任せて、とっとと戻ってやった方がいい。
そして縄で、自分の体としっかり結びつけるんだ。どんな事があっても、決して離れねーように」
「…どういう意味だよ…」
ジェイが不審そうに眉を寄せた。

「じき、嵐が来る―――」

ジルは静かにそう告げた。





>>To Be Continued

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