RS FANTASY

りくそらたのファンタジー小説おきば。
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | | - | - |
LOVE PAHNTOM第4章 帰郷-3-
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

第4章 帰郷-3-

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
アイシェが打ち上げられていたというオグマの海岸から、風渓谷までの道のりは決して楽なものではなかった。
リンカーンはペースを緩めることなく歩みを進め、交わされる会話はほとんどなく、ただ、目的地に向かってのみ歩き続けた。
日が昇ると同時に出発し、足元が見えなくなる程の闇が降りるまで歩き続ける。
オグマの海岸を離れてからずっとそのペースだ。

アイシェの体力は、限界に近かった。
日が沈む頃にはいつも体力は極限に達し、食事を取るのがやっとの状態で、夜はそのまま死んだように床に付く。
アイシェが自分から話さない限り、外で見てきた世界の事は、何ひとつとしてリンカーンの口から尋ねてくることはない。
もともと無口ではあるが、何も聞かないしゃべらないリンカーンの態度が、かえってアイシェの神経を削る。
これならば、根掘り葉掘り問い詰められる方がよほどマシだ。
リンカーンはシュラの中でも、一、二位を争うラグナの持ち主だった。
その実力を買われて、ゆくゆくは頭領の座を任されるだろうと村の誰もが思っていた。
彼ほどのラグナの持ち主ともなれば、アイシェのラグナが何らかの力によって封印されていることもわかるだろう。
どうしてそんなことになっているのか、どういう経緯で攫われたのか。
その間、どういう生活をしてきたのか。
聞きたいことは山ほどあるはずだ。
だがそれについては何ひとつ、リンカーンの口から尋ねてくることはなかった。

(…何だか息が詰まりそう…。リンカーン、怒っているんだわ…)

無言の背中を見つめながら、アイシェは大きなため息を何度も零した。




五日ほど歩くと、切り立った崖が眼前に飛び込んできた。
「着いたぞ。谷の入り口だ」
アイシェは初めて村の外からそれを見た。
「……こんなところに、村があるの…?」
切立った崖の間に細く道があるだけの枯れた大地。
この先に村があるなど、人が生活している居住区があるなどとは到底思えない。
ただあるのは崖と褐色の岩ばかり。
そんな崖に挟まれた道が淡々と続くか、もしくは砂漠へと続くことを想像させるような枯れた道だ。
「…行くぞ」
「あ…。待って…!」
戸惑いを隠せないアイシェの様子を気にすることもなく、リンカーンは切り立った崖の細道を歩き出した。
アイシェも慌ててその背中を追いかける。
戸惑いつつも、村に近づいた安堵感からか、自然に歩幅も広く足取りも軽くなる。
切り立った岩の裂け目を、絶壁に囲まれた空間をふたりはひたすら進んだ。
しばらく行くと道が二本に枝分かれしている場所に出くわした。
「こっちだ」
リンカーンに促されるままに左に曲がると、突如、アイシェの身体に異変が起きた。
ビクリと身体を震わす。
何かが身体の中をすり抜けるような奇妙な感覚。
ほんの一瞬だったが、確かに感じた。
しかし、立ち止まってそれを振り返るが何も無い。
先ほどまでアイシェ達が通ってきた枯れた赤い道が続いているだけだ。

(…今の……何…?)

不安げに両腕を掻き寄せる。
何かが身体を摺り抜けた―――。
そんなひどく気分の悪い感触だった。
「どうした?」
アイシェの異変に気付いたのか、珍しくリンカーンが歩みを止めてそれを振り返った。
その顔は何も感じなかったかのように、平然としている。
違和感を感じたのは自分だけだったのだろうか。
「…今、変な感じがしたの…」
「変な感じ?」
「何か…。目に見えない何かが身体の中をすり抜けるような感じが……」
リンカーンに話しても、わかってくれないであろう感覚を、独り言のようにアイシェは零した。
「………」
案の定、アイシェの奇妙な言葉にリンカーンは眉を寄せた。
こんな感覚、言っても信じてもらえないだろう。
自分だってそれが何なのかわからないのだから。
アイシェは心配をかけないように笑いかけた。
「ううん。気にしないで。きっと私の思い過ごしだから」
ここまでの距離を随分ハイペースで歩き続けた。
疲れのせいで、白昼夢か何かでも見たのだろう。
振り返っても何もないし、共にいたリンカーンは何とも無いのだ。
「村はもう少しなんでしょ?おじいちゃんが待ってる」
不安を振り払うかのように笑って、不思議そうに見つめ返すリンカーンを促した。
「早く行こう?」
下から覗き込むようにリンカーンに声を掛けたが返事がない。
「リンカーン…?」
「今のは、結界だ」
リンカーンの言葉に、今度はアイシェが聞き返す番だった。
「……え…?」
「内と外を隔てる壁―――それを今、潜り抜けた。
何かが身体をすり抜けるような感覚…それをアイシェは感じたんだろう?」
まさにその感覚。
アイシェは恐る恐る頷いた。
「今の二本に枝分かれた道。そこが境界線だ。
村の者にしか分からない結界を張ることで、村への侵入を防ぐ。よほどのことが無い限り、村へは入ることができない。
普通の人間ならば、あそこで右の道を選ぶ。人間の本能がそう選ばせる。
だから決して、シュラの村が人に知られることはない」
「じゃあ、あの変な感触は…」
「結界をすり抜けた時に感じる違和感だ」
「リンカーンは感じなかったの?」
彼は平然としていた。
「俺は何度も村の外に出てる。今はほとんど何も感じない。
アイシェは今まで、村の外に出ることがなかった。だから不快を感じても仕方がない」
「どうして…結界なんか……」

崖に覆われ隠れるように存在するシュラ。
地図にもなく、その存在すら世間には知られていない幻の村。
ジェイもセイラもそんな村の名前は聞いたことがない―――と言っていた。
ただでさえ見つけられないような場所に存在し、外部の者が侵入できないように内と外を隔てる結界を張る。


(…そこまでして、何を守っているの?)


検討は付く。
アイシェが首から下げた石、ファントム。

(ファントムって、一体何なの…?これを外に出してはいけない理由って何?何をみんな恐れているの―――?)

アイシェは胸元を握りしめた。
ジェイが細工してくれたブロンズのペンダントが、しっかりと掌に納まる。
村に帰れるというのに、胸騒ぎがして落ち着かないのはどうしてなのだろう。
不安で、心細くて仕方がない。
あんなに帰りたくてしょうがなかった自分の故郷なのに…。


「そんな不安そうな顔をするな」

すぐ頭の上で声がして顔を上げると、いつからそこにいたのか、リンカーンがすぐそばでアイシェを見下ろしていた。
深い緋色の瞳がじっとアイシェを見つめる。
泣きそうな時や不安な時は、いつもリンカーンが側にいて慰めてくれた。
器用な言葉や表立った優しい態度はないが、何も聞かずに落ち着くまで側にいてくれる。
兄のような、家族のような幼なじみ。
彼のそういう不器用な優しさは、昔からちっとも変わっていない。

「村はすぐそこだ。アイシェは余計な事を考えなくていい。
今は村に帰ることだけを考えろ。それで全てがうまく行く。もとの生活に戻るんだ」
「もとの…生活……」
何不自由なく、のどかで穏やかな村での日々。
得体の知れない影に怯えることもなく、安心した毎日がまた戻ってくるというのだ。
(だけど…私は、また……)

「アイシェ、何してる?」

グッと腕を強く捕まれた。
アイシェの迷いを素早く感じ取ってか、リンカーンはその腕を強く引き寄せた。
引力に負けそうになる小さな身体に力を入れて、アイシェはそれを突っぱねた。

「私、やっぱり……」

帰れない。
帰りたくないわけではない。
けれど、このまま村に帰ってしまったら、もう二度とそこからは出られない。
結界を張ってまで守ろうとしている石を、それを所持したアイシェをそう簡単に村は手離したりしないだろう。
村を囲う結界は自分を閉じ込める鳥かごでしかないのだ。
そこに戻ればもう二度と、自由に外を飛び回ることは出来ないだろう。
ジェイに会うことも、もう二度と―――。


「ゴメンなさい!リンカーン、私、やっぱり―――…ッ!?」


腕を振りほどこうとしたと同時、リンカーンの大きな掌がアイシェの視界に覆いかぶさるように広げられた。
(しまった……!)
そう思った時にはすでに遅く、視界がぼやけ、意識が遠のくのがわかった。
アイシェの異変に逸早く気付いたリンカーンが、ラグナの力を使ったのだ。
彼の持つラグナは“幻”の力。
光の力に変化を加え、現実に無いものを生み出す。
幻惑の力が働き、現実を歪ませ、脳に直接その力を送り込む。
こうなれば夢と現実との区別がつかず、意識が落ちる。

「……ッ、リンカーン……どうして…―――」

そこで意識は途切れた。
アイシェはそのまま雪崩れるようにその場に倒れ込んだ。
「アイシェの考えぐらいお見通しだ。何年、一緒にいると思ってんだ。
この馬鹿が―――」
もうすでに意識の無いアイシェを軽々と抱き上げると、頬に張り付いた亜麻色の髪をそっと指で払ってやる。


「はじめに言っておいたはずだ。
何としてでも、力づくでも連れて帰るってな―――」





>>To Be Continued


にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ


| LOVE PAHNTOM 第4章 | 14:56 | comments(0) | - |
スポンサーサイト
| - | 14:56 | - | - |









/PAGES

Others
Mobile
qrcode