RS FANTASY

りくそらたのファンタジー小説おきば。
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LOVE PHANTOM第1章   運命の扉-16-
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LOVE PAHNTOM第1章 運命の扉-16-

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朝からとても天気がよかった。
空は抜けるような快晴で、甲板に出ると日差しを照り返す海の蒼が眩しく、ジェイは目を細めた。
ひとりで遅めの朝食を取り、もう朝食はジェイで最後だという食堂のおばさんに頼み込んで、別に一人分の朝食を受け取り部屋に戻る。
アイシェはまだ寝ているようだった。
薄いカーテンの向こうから、規則正しい寝息が聞こえてくる。

昨晩はずいぶん遅かった。
眠っているのを起こしてしまうのは可哀相だ。
ジェイはそっとカーテンを開け枕元にある小さなサイドテーブルに持って帰った朝食を置いた。
そして枕元にメモを置く。
これで目を覚ました時、アイシェが不安がって探したりはしないだろう。
ふとアイシェに目をやると気持ちよさそうに寝息をたてながら、心地よい眠りについていた。



(こんな状況で、よく熟睡できるな…)

見知らぬ男と同じ部屋で、ぐっすりと眠るアイシェは、よほど自分を信用しているらしい。
アイシェの頭をそっと撫でてやる。
頬にかかった長い髪を指で払ってやると、アイシェが「う…ん」と寝返りをうった。
いつまでもその愛らしい寝顔を見ていたい気もしたが、起すと可哀想なので目を覚ますまで外へ出ている事にした。




ジェイは再び甲板へ出ると、船尾に置いてあった樽の上に腰を降ろした。
船尾は波飛沫を上げて、船が通った後を白く残す。
明日の午後には港に着く予定だ。

ジェイはぼんやりと海を見つめた。
昨晩はずいぶんと酒を飲んだ。
もともと何かを忘れたくて飲んでいたのだから、酔いが回っても仕方がない。
アイシェが現れたのは予定外だった。
酒が抜けてなかったといえ、つい口に出てしまった弱音はあまりにも格好が悪い。
まるで母親にすがる小さな子どもだ。
アイシェの胸は温かく柔らかで、とてもいい匂いがした。
母親とはこんな感じなのだろうか。
ふと、そんな風に感じた。
ジェイには物心がつく前から母親がいなかった。
父親に育てられたが、その父も早くに他界した。
優しく全てを包み込んでくれるような暖かさ。
それはもう、随分昔に忘れていたものだった。
アイシェも両親を幼い頃に亡くしていると聞いた。
それでも祖母や村の人々に大事に育てられてきたのだろう。
彼女からはその温かさがにじみ出ていた。
アイシェの胸の中は、自分に安心感と安らぎを与えてくれた。
こんな穏やかな気持ちは、久しぶりだった。


「…つうか、アイシェって、意外に……」
そう言いかけて、ジェイは口元を手で覆う。
女の体の柔らかさも、繋がる気持ちよさも、ジェイはよく知ってる。
5つも年下だからって、軽く見ていた。
あんなあどけない顔をしていても、アイシェは女だ。
見た目が華奢すぎて分かりにくかったけれど、見えない部分に隠された豊かな胸の膨らみは反則だ。
幼さとのギャップが激しすぎる。
「やべ…オレ、変な想像しちまった……」
雑念を払うように頭を何度もかきむしった。
けれど、あの時の柔らかさが何度も思い起こされて消えてはくれない。
アイシェの事をそういう目で、見たくはないのに。
男の性は正直だ。



「おはよ、ジェイ」
突然降ってきた声に、ジェイは驚いて座っていた樽から転げ落ちそうになった。
声のした方にじわりと顔を向けると、きょとんとした表情でアイシェが立っていた。
昨日のことなんて覚えてないかのように、屈託ない顔でアイシェがにこりと笑う。
「…どうしたの?」
まじまじと見つめてくるだけで、返事をしようとしないジェイを不思議そうな顔でアイシェが覗き込んだ。
目が合うとにこりと笑う。



(…無自覚だから、ヤバイんだ。こいつは。
ていうか、誰にでもああいうことをやるのか?)




ジェイは妙に胸がざわざわする気持ちを覚えた。






>>To Be Continued

| LOVE PHANTOM 第1章 | 19:58 | comments(0) | - |
LOVE PHANTOM第1章   運命の扉-15-
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LOVE PAHNTOM第1章 運命の扉-15-

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次の朝、目が覚めると、カーテンの向こうにジェイの姿はなかった。
「…ジェイ?」
ゆっくりと体を起しながら遠慮がちに呼んでみたが、返事はない。
サイドテーブルに視線をやると、手紙が置いてあるのが目に入った。



『昨日はごめん。
朝食の時間が終わっちまうから、置いておく。オレはその辺を散歩してくるから、アイシェはゆっくり寝ててよし』


手紙の横には黒糖パンと山羊のチーズ、山羊のミルクの簡単な朝食が置かれてあった。
ふと、壁に掛けてある時計を見上げるともう昼前だ。
随分と朝寝坊してしまったらしい。
まだ何となく気だるい体を起し、顔を洗って簡単な身支度を済ませると、ジェイが用意してくれていたパンを口にほおばった。
焼いてから随分たっていて少し堅くはなってはいたが、香ばしくておいしかった。
ゆっくりとパンをほおばりながら、アイシェはぼんやりと昨日の事を思い出した。
あんな弱弱しいジェイをはじめて見た。
セイラの事で悲しくないはずなんてないのに、それを決して表に出さず、平然を装っていたジェイ。
ずっと強い人だ、と思っていたので正直驚いた。
そして少しホッとしたのだ。
そういう弱い一面があることを知って、安心したのだ。
だからそんなジェイを見て、放っておけない気持ちになって、気がついたら抱きしめてしまった。
自分でも、びっくりした。


「…私、何であんな事しちゃったんだろう」
恥ずかしさのあまり顔を覆う。
大胆で突拍子もない行動を思い出すと、顔から火が出そうだ。
「合わせる顔がないよ…」

小さい頃から淋しい時や泣きたい時は、いつも祖父ガランが優しく抱きしめてくれた。
早くに両親を亡くしたアイシェは、両親のいる友達をうらやましく思う時もあったが、寂しくはなかった。
厳しくはあるが温かく優しい祖父に育てられ、寂しい時は抱きしめてくれ、嬉しい時は共に喜んでくれる。
村人達もアイシェを娘のように温かく見守ってくれた。
何一つ、寂しい思いはしなかった。
だからジェイが寂しそうにしていた時、思わず抱きしめてしまった。
祖父がいつもそうしてくれたように。


「でも、あんな子どもにするみたいなこと…」
小さい子どもにするならともかく、ジェイは立派な大人の男だ。
聞けば五つも年上だというではないか。
あんな子どもじみた行動をどう思っただろう。
恥ずかしくて合わせる顔がない。
もしかして昨日の事に呆れて、朝早くに出て行ってしまったのではないだろうか。
今度は顔が青くなる。

とにかくジェイを探そう。
もし機嫌を損ねているようなら謝ろう。
アイシェは残ったパンを急いで口にほおばった。



>>To Be Continued


| LOVE PHANTOM 第1章 | 19:52 | comments(0) | - |
LOVE PHANTOM第1章   運命の扉-14-
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LOVE PAHNTOM第1章 運命の扉-14-

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ジェイはアイシェの腕を離さないように強く握り、自室へと連れて帰った。
ドアを閉め、ようやくアイシェの手を離す。
「ジェイ?」
心なしかジェイは不機嫌だ。
「ジェ…」
「何であんなところに来たんだ?」
言葉を遮られる。
落ち着いた口調ではあるものの、明らかに怒っている。
「だって…起きたらジェイがいなくて…」
アイシェは申し訳なさそうに目を伏せた。
「酒場は男の集まるところだ。陸の酒場ならまだしも、海の酒場に若い女がひとりで出入りするなんて危険すぎる。それぐらいわかるだろ?」
「でも…」
「これ以上、世話を焼かせないでくれ」
ジェイはため息混じりに呟くと、部屋の隅にある小さな木の椅子にドカッと腰を降ろした。
その言葉にアイシェは小さくごめんなさいと呟いた。
自分のせいで、ジェイに迷惑をかけているのは分かっている。
見ず知らずの自分を助けてくれたばかりか、村まで送ってくれているのだ。
これ以上世話を焼かすなと言いたくなるジェイの気持ちもわかる。
未知の地で、アイシェにとって頼れるのはジェイだけだった。
まだ会って間もない人間をどうしてここまで信用できるのかと言われれば答えに困るけれど、今はジェイを頼るしか方法が思いつかない。
ここでジェイに見捨てられでもしたら、途方に暮れてしまう。
ジェイといるとなぜだか安心した。
その分、姿が見えなくなると不安になってしまうのだ。
攫われたあの時のように、底知れぬ不安と恐怖がアイシェを襲うのだった。
思わずアイシェの瞳から涙がこぼれた。






小さく肩を震わせて涙ぐんでいるアイシェを見て、ジェイはため息をついた。
少し言い過ぎた。
年を聞けば17そこそこだという。
自分とは5つも違うじゃないか。
成人もまだな幼い少女に―――。

男達に囲まれて戸惑うアイシェを見つけたとき、何ともいえぬ気持ちになった。
カッと頭に血が上ったのだ。
何でこんなところに、と。
そして何よりアイシェに群がる男達に腹がたった。
非力で幼い少女相手に何人も。
酒が入っていたということもあってか、無性にイライラした。
その時上った血がまだ下がってない。
そのイライラを発散させることなく、そのままアイシェにぶつけてしまった。
アイシェは目を覚ました時に、自分の姿がなく不安だったのだろう。
真夜中に、ましてやあんな事件の後にひとりにされれば、誰だって不安になる。
今のアイシェが頼れるのは自分だけだというのに。
そもそもこんな事になってしまったのは、眠ってしまえば大丈夫だろうという浅はかな判断からだ。
夜中に目が覚めることも予測して、最初から飲みに行くことを話しておけばこんな事にはならなかったものを。
今回もセイラの件も、自分のせいで危険な目に合わせた。
自分さえ、もう少ししっかりしていれば。
そう思うと余計に腹立たしい。




「ごめん」
ジェイは頭を下げた。
「オレが悪かったのに、アイシェに当たるなんて」
どうかしてた。こんな小さな少女に。
「もう嫌だったんだ、自分の目の前で誰かがどうにかなるのを見るなんて」
その言葉にアイシェがゆっくりと顔を上げた。
男に囲まれたアイシェを見た時に一気に醒めた酔いが、今頃になって回ってきたのだろうか。
頭がガンガンする。
普段なら絶対吐かないような弱音が、口から滑るように出てしまう。
「オレ、かっこわりーよな」
椅子に腰かけたままでうなだれるように頭を落とした。
「…ジェイ…」
「さっきの話はもう、気にしないでくれ。
さ、寝ようぜ。もう断りなしで、どこにも行かないから安心し―――」
フッと自分の足元に影が落ちて、アイシェの小さな足が見えた。
顔を上げようとした瞬間、小さな身体に不意に抱きしめられた。
「…!?」
見上げたジェイの頭を柔らかくアイシェの腕が包む。
まるで母親が小さな子どもを抱きしめるかのように、アイシェはジェイを抱きしめた。






「―――アイシェ…?」

驚いて上げた顔に、アイシェが頬を摺り寄せる。
「お前、なにやって―――」
「ジェイが……泣きそうな顔、してたから……」
「オレが…? ……馬鹿か。泣くかよ」

アイシェの言葉に、思わず苦笑する。


「だって…。ずっと我慢してたんでしょう? ジェイ、セイラさんが亡くなってから、一度も泣いてないから……」
そう言ってなおも強く、アイシェはその胸にジェイを抱きしめる。
柔肌に顔が沈んで苦しいぐらいだ。
「泣いてもいいのに…泣けば、いいのに……」
自分の代わりに泣いているような声がした。
その声に思わず、胸の奥が詰まる。
「オレは、大丈夫だから……」
大丈夫だと言っているのに、アイシェは抱きしめたまま離そうとしない。
それどころか自分の頬をジェイの頭に寄せ、まるで子どもをなだめる母親のようにそっと頭をなでていく。
何度も何度も、優しく穏やかに。
寄せた胸から聞こえてくる波打つ鼓動は、アイシェのものだろうか。
それとも自分の―――。






(…まいったな…)

ジェイはアイシェの胸に抱かれながら、ぼんやりと考えた。
こんなにも心地いいのは、久しぶりだ。
(まあ、いいか。たまにはこういうのも悪くない)
心から安堵できるような柔らかさとぬくもりを全身に感じながら。
「サンキュー」
ジェイはそっと呟いた。





>>To Be Continued



| LOVE PHANTOM 第1章 | 19:42 | - | - |
LOVE PHANTOM第1章   運命の扉-13-
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LOVE PAHNTOM第1章 運命の扉-13-

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男達がいなくなると酒場はいつもの雰囲気を取り戻し、人々は何事もなかったかのように飲み始めた。
刺青の男はもとの席に着くと、何本目かわからない煙草に火をつけた。
白い煙が宙に浮んだ。


「何で助けてくれたんだ」
ジェイが男に聞いた。
あの状況でまさか、助け舟を出す人間がいるなんて思いもしなかった。
ギャラリーは面倒なことにかかわりたくないといった風な者か、野次馬根性で興味津々といった者ばかりだった。
あの状況では無理もない。
助け舟を出すなど、よほど腕に自信がないと自殺行為だ。
「…助けたつもりはないんだが…大勢で寄ってたかってっていうのが、わしは好きじゃないんでな。たんなるおやじの気まぐれだ」
そう言って男は手酌でグラスに酒を注ぐと、うまそうに飲み干した。
「…アンタ、その右腕の刺青…」
「あん? これか?」
どうだ、立派だろ?と自慢げに右腕を撫でると、ニヤリと口の端に白い歯を覗かせた。
色黒の肌のせいで、口元から覗く歯がいっそう白く見える。
「これがどうかしたか?」
「いや…」
ジェイは少し考える仕草を見せたがそれを口に出さず、
「行くぞ、アイシェ」
アイシェの背中を押して酒場の外へと促した。
「でも…」
「何だ?」
ジェイは不機嫌そうに眉を寄せると、立ち止まったアイシェを振り返った。
「お礼」
「礼?」
「うん。…あの、助けてれてありがとうございました」
そう言って男に深々と頭を下げた。
刺青の男は一瞬目を丸くしたが、
「なぁに、いいってことよ。もうひとりでこんなところに来るなよ」
そう言って白い歯を覗かせた。
笑うと少し目が垂れる優しい笑顔が見えた。
「行くぞ」
「あ、うん」
アイシェは刺青の男に小さく頭を下げると、ジェイに手を引かれながら酒場を後にした。





>>To Be Continued




| LOVE PHANTOM 第1章 | 19:32 | comments(0) | - |
LOVE PHANTOM第1章   運命の扉-12-
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LOVE PAHNTOM第1章 運命の扉-12-

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男達がじわじわと詰め寄ってくる。
このままでは思うつぼだ。
アイシェだけでもここから逃がしてやりたいが、自分の側から離す方が危険だ。
逃がしてもすぐに捕まってしまうだろう。
皆、酒が入っていて気が立っている。
乱闘騒ぎになるのは免れないのか───。
ジェイはアイシェの小さな肩を抱きながら、男達の出方を待った。




「その辺にしておけや」


ドスの利いた低い声が部屋に響いた。
突然降ってきた声に、皆の動きが一瞬止まる。
「何だてめぇ…」
リーダー格の男が眉を寄せて声の主を振り返った。
酒場の一番奥の席に、騒ぎに臆することもなくひとりの男が酒を飲んでいた。
テーブルに置かれた灰皿の上には無数の煙草の吸殻が山積みにされていて、何本目か分からない煙草に火をつけたところだった。
「いい大人がよってたかって。情けねぇな」
男は吸っていた煙草を口から離しため息混じりに煙を吐くと、低い声でそう言った。
「何だと!?」
その言葉に男達が声を荒上げる。
「どうやらてめーも、やられたいみてーだなぁ?」
男は胸の前で手を組み合わせ、ポキポキと指を鳴らすと奥の席の男を睨みつけた。
「俺たちにたてついた事を後悔するんだな」
男は見下すような視線でそう言うと、近くにいた数人の男達に声を掛けた。
「お前らはそっちの男をやれ! 女も逃がすんじゃねーぞ!!」
その言葉に気のそれていた男達の意識が、ジェイとアイシェに再び集中した。
「チッ」
騒ぎに応じてアイシェだけでも安全なところへ逃がせないだろうかと、思考をめぐらせていたジェイの考えが中断される。
男達の視線が一気にこちらに集中する。
最悪、ラグナは使える。
けれど、こんな狭い空間でラグナを使えばどういうことのなるのかぐらいは、容易想像できた。
簡単に使うわけにはいかない。
「…ジェイ」
アイシェがぎゅっと服を握った。






「やめろといってるのが、わからねぇのかっ!?」


ドンッ!とテーブルを叩く音と共に、ドスの効いた声が響いた。
その声に、船内が波を打ったように静まりかえる。
「ガツガツしやがってみっともねぇ!女は陸に上がってからにしろってんだ!!」
そう言って奥のテーブルに座っていた男が立ち上がった。
派手な音がして椅子がその場に倒れ、その瞬間、肩から掛けていた上着がパサリと床に落ちた。

日に焼けた浅黒い肌に、鍛えた筋肉。
ボサボサの髪に無精ひげをのばし、見た目は浮浪者のような身なりだが、髪の間から覗く黒とも藍とも取れる深い色の瞳は力強く鋭い。
肩口まで捲り上げられた袖口から覗く右腕に、立派な鷹の刺青が見えた。
それは今にも男の肩口から飛び立ちそうなほどリアルで、見事なものだった。


「お…おい、アイツ! あの刺青は…」
ひとりの男が声を上げ、リーダーの男に耳打ちをした。
「何!?」
その瞬間、男の顔色が変わった。
ざわりと動揺の波紋が辺りに広がっていく。
「…何…?」
アイシェが不安そうにジェイを見上げた。
ジェイは目を丸くして刺青の男をじっと見据える。
ボス格の男は舐るように刺青の男を見やるとチッと舌を鳴らした。
「今日のところはこの辺にしておいてやるよ!!命拾いしたなっ。
おい、行くぞ!!」
そう吐き捨てるように言い放つと、荒々しく扉を開けその場を立ち去った。
他の男達も頭になるものがいなくなると、尻尾を巻くようにその場から逃げるように消えていった。

その様子をジェイの背に隠れながらアイシェはぽかんと見送った。




>>To Be Continued


| LOVE PHANTOM 第1章 | 19:20 | comments(0) | - |
LOVE PHANTOM第1章  運命の扉-11-
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LOVE PAHNTOM第1章 運命の扉-11-

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やけに入り口の方が騒がしい。
何やらはやし立てる声と口笛が響く。
男達がギャンブルでも始めたのだろうか。
ジェイはさも興味なさそうに、今夜何杯目になるかわからない麦酒をあおった。
酒が体に染み渡り、心地良さを誘う。
「マスター、酒」
カラになったグラスをカウンター越しの男に差し出した。
「兄ちゃん大丈夫か? 今ので、何杯目だ? そろそろやめておいた方がいいんじゃないのか?」
「いや、今夜は飲みたい気分なんだ」
ジェイは催促するようにグラスを振った。
そんな様子に肩をすくめると、男はグラスにまたなみなみと麦酒を注ぐ。
「あの人だかりは?」
男からグラスを受け取ると、ジェイは入り口をちらりと仰いだ。
「ああ…。女が酒場に入ってきたらしい」
「女? こんな男達の群れる酒場に入ってくるなんて、よっぽどの好き者だな」
「いや、そんな感じじゃねぇなぁ。
娼婦の女っていうよりは、むしろ何も知らずに迷い込んだ世間知らずの娘さんって感じだったが。連れを探してるみたいだぜ?」
ジェイは男の言葉を聞いて、興味のなかった人だかりに視線を泳がせた。
部屋の薄暗い灯りで見えにくい。
よく目を凝らすと、男達の群れに埋もれるようにして見え隠れする小さな頭が見えた。
亜麻色の小さな頭。
     

     
あれは…―――。









ガタガタッ!!
急に立ち上がったので派手な音がして椅子が倒れた。
「どうした? 兄ちゃん」
「あんの、馬鹿っ!!」
ジェイは男の声に耳もかさず、つかつかと人混みに歩み寄った。


男達に取り囲まれるように、小さい体をなおも小さく縮こまらせて少女が立っていた。
この場の雰囲気とは全く似つかわしくない幼い少女。
抜けるような白い肌に大きな翡翠の瞳。
熟れた果実のような唇をきゅっと結び、頬を桜色に染めて下を向く。
あどけなさを残した幼い顔立ちは、酒場にはあまりにも不釣合いだ。
ガラス玉のように澄んだ大きな瞳からは、今にも涙がこぼれ落ちそうだ。
「何でこんなところに!」
チッと舌を打ち鳴らす。
間違えなくその娘はアイシェだ。
それを確認した瞬間、一気に酔いが覚めた。



「だからよぉ、俺たちと一緒に飲もうって言ってるだけじゃねーか」
「私は連れを探してるの!」
「連れなんか放っておけばいいじゃねーかよぉ」
「でも私、飲めないから……」
「そう言わずに一緒に来いよ。酒の飲み方ぐらい、教えてやるから」
男は嫌がるアイシェの手を無理やり引いた。
「あのっ、でもっ!!」
「そう言わずにさぁ〜」
男はニヤニヤと厭らしい笑顔を振りまきながら、小さな肩を抱く。
「───やっ!」
アイシェは思い切り男を突き飛ばした。
小さな体はその反動でよろめき、その場に弾き出される。
思わず座り込みそうになるのをグッとこらえた。
ここから出たほうがいい。
危険なシグナルが頭の中で鳴り響くのに、男達によって逃げ道を奪われてしまう。
酒場に迷い込んだ小鳥を我が物にしようとじわじわと歩みを寄せる。
こんなところ、ひとりで来るんじゃなかった───。
アイシェは泣きそうな顔でキュッと唇を結んだ。







「あ…っ!」


グイっと。
誰かに腕を掴まれ強引に体を引き寄せられた。
嫌がる体を有無も言わせず自分の側に引き寄せて、その小さな肩を抱く。
「いやぁっ!!」
アイシェが泣きそうな声を上げた。

「なんだあ? お前は!?」
男が荒々しく声を上げた。
ザワリと酒場に動揺の声が広がる。
「悪いけど、他を当たってくれないか」
「!?」
聞き覚えのある声に、アイシェは弾かれたように顔を上げた。
「ジェイ!!」
見上げた男の顔は、アイシェが探していたジェイ本人だ。
知った顔に安堵の表情を浮ばせる。
「何だよてめーは!? 抜け駆けするつもりか?」
「こいつはオレの連れだ」
行くぞ、とジェイはアイシェの背を押して入り口へと促した。
「ちょっと待てや!!」
自分達の見つけた獲物を横取りしようとする男に腹を立てて、男達が怒りに体を震わせる。
「俺達が誘ってんだ。勝手に連れてってんじゃねーよ!!」
「きゃぁっ!」
引き戻そうと手を伸ばす。
「他を当たってくれって言ってるだろ」
その手を軽く払うと、庇うようにアイシェの肩を抱き寄せた。
アイシェが怯えたようにジェイの服をぎゅっと掴む。
その手が小刻みに震えている。
明らかに怯えているのが手に取るようにわかった。
「よそ者がえらそうにしやがって!」
「そんな態度でここから無事に出られると思ってるんじゃねーよな?」
男達が怒りをあらわにして、2人を取り囲んだ。
じわじわと詰め寄ってくる。
力ずくでもアイシェを手に入れようという魂胆だ。

むさ苦しい男しかいない酒場で、女の一人でもいれば酒の盛り上がりも違ってくるだろう。
ましてや幼さを残すものの、アイシェはかなりの美人だ。
我先にとこぞって争うのも分かる。
それを突然割り込んできた男が攫っていこうとしたのだ。
怒り狂っても無理はない。





「ジェイ…」
アイシェが小さく呟いた。
「ごめんなさい、私…」
小さく声を震わせながらジェイを見上げてくる顔は、心底怯えた表情だ。
こんな時に不謹慎だが、たまらなく可愛いと思った。
見上げてくる大きな瞳に、吸い込まれそうになる。
胸の奥をぎゅっと掴まれるような感覚がジェイを襲った。
絶対、こんなならず者のような男達に渡すものかと強く思う。

「いいか、アイシェ。絶対に、オレから離れるな」

不安にすがり付くアイシェを安心させるように声を掛けた。



>>>To Be Continued
| LOVE PHANTOM 第1章 | 15:26 | comments(0) | - |
LOVE PAHNTOM第1章  運命の扉-10-
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LOVE PAHNTOM第1章 運命の扉-10-

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アイシェは暗闇の中、目が覚めた。
目を開けると雨漏りをしたような染みがいくつも残る天井が見えて、ギシギシと梁がきしむ音と、波の音が鼓膜を揺らした。
「…夢…?」
ゆっくりと体を起こす。
そこは北へと向かう船の一室のベッドの上だった。
内容はあまり覚えていないけれど変な夢を見ていた。
激しい動悸がして、呼吸がうまくできない。
胸に手を当てると、かなり早く脈打っているのがわかる。
アイシェは大きく息を整えながら、首に下げた巾着型の袋を握りしめた。
萌葱色の巾着に麻紐を通したそれは、生まれたときから身に着けている大事なお守りだ。
これに触れるといつも心が落ち着き、気持ちが安らぐ。
時には自分に力を貸してくれるようにも感じる。
アイシェにとってなくてはならない大事なものだった。


しばらくそれを握りしめ、瞳を閉じていると次第に気持ちが落ち着いた。
汗で額に張り付いた髪を払う。
寝間着がじとりと汗で湿っている。
とりあえずぬれたそれを着替えようと、サイドテーブルに置かれた服に手を伸ばした。
「…ジェイ?」
布でしきった部屋の向こうで寝ているはずのジェイに、そっと声を掛けてみる。
アイシェのために部屋を取ってくれたのだが、旅の路銀が少ない為、小さな部屋をひとつ取るのが精一杯だった。
自分は他の男達と雑魚寝でいいからと部屋を出て行くジェイに、それでは申し訳ないからといって引き止めたのだ。
しつこいアイシェに根負けをして、その部屋を半分シーツで仕切り、ジェイは扉に近い床に寝ているはずだった。


返事がない。
ジェイが寝ていることに安心して、アイシェはぬれた寝間着を脱いで服に着替えた。
手持ちの服はさらわれた時に着ていた一着だけだ。
あとは船内に用意された麻の薄い寝間着が一枚。
アイシェは汗で汚れた寝間着を洗おうと、そっと部屋を仕切る布を開けた。
「…ジェイ?」
そこに寝ているはずのジェイの姿がない。
寝床も冷たくなっている。
部屋を出てからずいぶん経っているようだ。
「どこに…行ったの?」
部屋のドアをそっと開けた。
昼間とは打って変わって人の気配のない長い廊下を歩き、上へと続く階段を登る。
時折、梁がきしみ不気味な音を立てる。
昼間は賑やかさであまり思わなかったが、夜の船の廊下は窓もなく不気味だ。
閉ざされた空間だから、余計にそう思うのだろう。
さほど広くもない廊下を恐る恐る歩くと、ひとつだけ雰囲気の違うにぎやかな部屋の入り口にたどりついた。
「何? ここ…」
アイシェはおそるおそる部屋の扉を開けた。



ムン、と鼻をつくような臭いがして一瞬、顔をしかめた。
酒と煙管、海の男達の独特な臭いが入り混じった臭いだ。
そこは船内の酒場で、小さなカウンターを囲むように男達がひしめきあっていた。
カウンターの他に小さなテーブルが3つほど並び、男達の低い笑い声が響く。
その中にジェイの姿がないか、背伸びをして探す。
小さなアイシェにとって背の高い男達の中から探すのは至難の業だ。


「────よう。誰かお探しかな?」


突然、頭の上から声が降ってきた。




>>To Be Continued
| LOVE PHANTOM 第1章 | 15:15 | comments(0) | - |
LOVE PAHNTOM第1章  運命の扉-9-
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LOVE PAHNTOM第1章 運命の扉-9-

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その夜、ジェイは船内にある小さな酒場で飲んでいた。
アイシェをひとり残してくるのは少々不安だったので、眠るのを確認してからそっと部屋を出てきた。
眠ってしまえば大丈夫だろう。
グラスに注がれた麦酒を片手に手をゆする。
半分ほど残った酒がゆらゆらとコップの中で揺れて波紋を描く。
それをぼんやりと見つめながら、ジェイは昼間のアイシェの顔を思い浮かべていた。



「私も連れてって…か…」

一瞬、ドキリとした。
何も考えてなさそうにみえて、勘が鋭い。
セイラが理不尽な死に方をしてから、ジェイはずっと心に決めていた。
あんな死を与えた奴らを絶対に許さない───と。
復讐を心に決めていた。
でもその気持ちを決して表には出さないようにしていたのに、アイシェはそれを感じ取ってしまった。
ジェイはため息をついた。


アイシェは不思議な少女だった。
小さな体からは想像できない強大なラグナの力を持っている。
アイシェの手からは、いともたやすく術が生み出されていく。

“ラグナ”とは、万物に宿るといわれる無形の要素のことだ。
この世界全土の社会はラグナの存在を前提として考えられている。
ゆえに人に限らず、生あるものは生まれたときから何らかのラグナを持ち、それをうまく用いることで生活してきた。
ラグナは本来6つのエレメント(属性)に分けられ、ラグナにその属性を宿すことで術や治癒法を使える。
しかし誰もがラグナによって術を使えるわけではなく、術として使えるのは強いラグナ(術力)と意志を持ったものだけ。
限られたごく一部の人間のみだ。
そんな希少価値の高い術をアイシェは軽がるとやってのけた。
熟練された術師や賢者でもなく普通の少女が、だ。
セイラやジェイも多少なりには術として使うことはできた。
しかしそれは非常に珍しい事で、自分達以外にそれをやってのける人間を初めて見た。
しかもはじめがあれだ。
アイシェの使った術は相当なもので、ほとんどが補助術ではなく完成されたものばかりだ。
ラグナを術として使用するには、かなりの体力を消費する。
しかも完成度が高いほど、消耗は激しい。
ラグナを鍛えることによって連続して使用したり威力を増したりは出来るようになるが、それでも体力の消費は間逃れない。
完成させたラグナを連続して使用し、それによってほとんど体力が消費されないということなど、本来ではありえない。
アイシェはそれを軽々とやってのけたのだ。
熟練の賢者や聖職者でもないただの小さな少女が、だ。
「ありえねぇ……」
ジェイは額に手を当て考え込んだ。


風の峡谷に守られ、外界から阻まれたシュラの村で生まれ、両親を早くに亡くしたというアイシェは村の最長老であり族長のガランに育てられた。
天真爛漫で好奇心旺盛。
自然をこよなく愛し、純粋無垢な性格。
一見どこにでもいるような少女なのだが、容姿はかなりの美少女だ。
ジェイは大きくため息をついた。
初めて見た瞬間、思わずアイシェに目を奪われ、言葉を失くした自分を思い出した。
(くそ…っ。セイラがあんな事になった後だってのにオレ、何考えてんだ…!)
ガッと頭を掻いて雑念を振り払うかのように、グラスに半分残った麦酒を一気に煽った。
彼女を初めて見た瞬間、鼓動が高鳴った。
一瞬で、心奪われたのだ。
それに気付かれないように、冷静さを装う自分が恥ずかしかった。
一目惚れだなんて、年甲斐もない。
そう思った。
さすがにセイラがあんな事になった後は、そんな事を考える余裕はなかったけれど。
それでも不用意に顔を近づけられたり、あの大きな瞳で見つめられたりすると体が熱くなり、鼓動が高鳴るのを感じてしまう。


正直、アイシェの申し出は嬉しかった。
彼女の術はかなりの戦力だ。
だが危険なところに飛び込む事が分かっているのに、一緒に連れては行けない。
もう、セイラの二の舞にはさせたくなかった。
これから先、どうなるかは見当がつかない。
そんな先へアイシェを連れて行けない。
すべてはけじめをつけてからだ。






「────セイラ、必ずお前の仇は取ってやる」


ジェイは自分に言い聞かせるかのように強く呟くと、残った麦酒を一気に煽った。





>>To Be Continued



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LOVE PHANTOM第1章   運命の扉-8-
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LOVE PHANTOM第1章  運命の扉-8-

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潮風が長い髪をなびかせる。
頬に当たる風は冷たくてとても気持ちがいい。
初めて見る海はどこまでも蒼く、地平線が遥か向こうに見える。
吸い込まれそうな海の蒼を覗き込みながら、アイシェは大きくため息をついた。

知らない土地に放り出されてしまったアイシェは、帰るすべを知らない。
今いる所がどこなのか、ここから村までどれぐらいかかってどうやって帰ればいいのか見当も付かない。
しかも攫われた身なので旅の路銀も、生活に必要なものも何ひとつ持ち合わせていなかった。
きっとひとりだと途方にくれていただろう。


あの後早々に支度を整え、ふたりは船に乗った。
シュラの村のある風の渓谷へは、船で一度大陸の北にあるトロイへ向かわなければならない。
普段は2日半ほどで着くトロイへの航路も、季節風と潮の流れの影響で今の時期は4日ほどかかる。
トロイへ着いてからも、風の渓谷までは4〜5日歩かなければならない。
ましてや旅なれないアイシェがいるために、村に着くまではかなりの時間を要するだろう。
しばらくは2人旅が続く。


村まで送ってくれるというジェイの申し出は、とてもありがたかった。
ジェイがいなければ途方にくれていただろう。
でも、このまま好意に甘えて帰ってしまってもいいのだろうか。
もちろん村に帰りたくないわけではない。
できることなら1日でも早く村に帰りたい。
村の者もみんな心配してるであろう。
我が子のように可愛がり育ててくれた祖父ガランは、大丈夫だろうか。
アイシェがいなくなった心労で、倒れてしまったりしていないだろうか。
ガランももうかなりの年だ。
早く帰って祖父を、みんなを安心させたい。
きっと今頃、突然いなくなったアイシェの行方を必死で探しているだろう。
そう思うのに、心にチクリと何かが突き刺さる。
自分を送って行った後、ジェイはどうするつもりなのだろう。
今朝、ジェイが準備している時に見えた荷物が気になる。



「そろそろ中に入った方がいいんじゃないか?体が冷えるぞ?」
甲板に出てきたジェイが声を掛けた。
「ん…、もう少しいるから先に中で休んで?」
アイシェはそう言って笑う。
「そうか?」
ジェイは中に入るでもなく、甲板の手すりに身を預けて海を眺めた。
何を考えてるのだろう。
ジェイの横顔をそっと覗き見た。

薄暗い地下ではよくわからなかったが、陽の下で見るとジェイは想像以上に整った顔立ちをしていた。
琥珀色のサラサラの髪。
海のように深く蒼い瞳。
鼻筋はスッと通り、真一文字に結ばれた唇は凛々しい。
あどけなさの抜けたスッキリとした顔立ちをしているが、笑うと時折、幼い表情がのぞく。
顔は決して悪くはない。むしろ男前な方だ。
年はアイシェよりも2つ3つ上ぐらいだろうか。



「オレの顔に、何かついてる?」
あまりに自分を見つめるので、ジェイが苦笑しながらアイシェを覗き込んだ。
慌てて視線を逸らし、ブンブンと首を横に振る。
それを見てジェイがまた、小さく笑う。

「ねぇ。…ジェイはどうして、私を村まで送ってくれるの…?」
見ず知らずの自分に、どうしてそんなに親切にしてくれるのだろう。
不思議でならない。
その問いにジェイは苦笑した。
少年っぽさを残した表情が覗く。
「土地勘のないアンタをそのまま置き去りに…なんて、鬼みたいな事はできないよ。ちょっとした親切心ってやつだ」
「でも…」
アイシェは言葉に詰まる。
親切でここまでしてもらうのは申し訳ない。
「それにシュラの村にも少し興味があるからな。地図にもない未知の村だぜ? トレジャーハンターのオレが興味を持たないはずないだろ?」
ジェイが得意げに、にやりと笑った。
旅の目的の大半はそちらにあるらしい。
「その後はどうするの?」
「後は北へ行って、いろいろと見て回ろうかと思ってるけど…。
何?オレに興味ある?」
オレって男前だからなぁと冗談交じりに付け加えて、ジェイはニヤリと口の端を持ち上げた。


「ねぇ、ジェイ…」
「んー?」
「それに私も、連れて行ってくれる?」
その言葉にジェイは目を大きく見開いた。

「…何? オレに惚れちゃった?」
軽く流してくれる事を期待していたのに、覗き込んだアイシェの顔はひどく曇っていた。
「…どうした?」
眉根に皺を寄せて何かを考え込むような表情は、少しでも突いたら簡単に崩れてしまいそうなぐらいに危うい。



「…ジェイは……セイラさんの仇を取りに行くつもりなんでしょう?」
ジェイの体がピクリと動く。
顔つきが微かに変わった。

「…何言ってんだよ。そんな事、するわけないだろ?」
オレ、面倒は嫌いだぜ?と苦笑する。
「嘘ばっかり」
アイシェは顔を上げるとジェイにずいっと詰め寄る。
「だって。荷物にたくさん爆薬とかナイフとか、詰め込んでたじゃない。普通の旅ならそういうものは、必要ないでしょ?」
大きな目をなおも大きく見開いて、ジェイに詰め寄った。
嘘を見抜いてやろうとする意志の強い瞳だ。
「オレはトレジャーハンターだぞ? 遺跡や古いものを調べるのに、爆薬や危険を回避する武器は必要だろ?」
「遺跡を調べたりする人は古いものを大事にするって、おじいちゃんが言ってた。だから爆薬なんかで、貴重なものを壊したりしないでしょ?」
「……」
アイシェはグッとジェイの服を掴んだ。
「ねぇ、行くなら私も連れて行って。こんな気持ちのままじゃ、村に帰れない」
アイシェの目は真剣だ。
決して簡単な決心ではないと、強い瞳からそれが感じ取れる。
ジェイは小さくため息をつくと、そっとアイシェの手を自分から引き離した。


「だから、何を言ってるんだよ? オレは仇を討ちに行くつもりなんてねぇよ」
「嘘」
「他にやることがあるんだ」
「じゃあそれに私も連れて行って」
「駄目だ」
「どうして!?」
「アンタは攫われてあそこにいたんだろ? 村の人が心配してる」
「じゃあ、村に寄ってから出かければいいじゃない」
「見ず知らずの男に着いて行くって言うのか? 許してもらえるわけないだろ?」
「ちゃんと上手に話すから」
「敵討ちに行きますってか? なおさら無理だね」
「じゃあ、置手紙をして夜中の内に…」
「くどい!!」
いつまでも食いかかってくるアイシェに痺れを切らせたのか、ジェイが強く言い放った。
「言っとくけど、仮に敵討ちに行くとしてもそうじゃなくても、オレはアンタを連れて行くつもりはない」
「どうして?」
「足手まといになるだけだ」
「私、術も使えるから…。ジェイも見たでしょ? 足手まといにならないようにする。だから…」
「アイシェ」
低音の声が、静かにアイシェを読んだ。
怒気を含んだ声色に、思わずビクリと体が強張る。
「たとえすごい術が使えたとしても、そんな事は関係ない。オレはあんたを連れて行く気はないからな」
ジェイはそう言うとめんどくさそうに頭を掻き、船内へと消えて行った。




>>To Be Continued





| LOVE PHANTOM 第1章 | 14:57 | - | - |
LOVE PHANTOM第1章  運命の扉-7-
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LOVE PAHNTOM第1章 運命の扉-7-

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冷たくなったセイラを抱えてアジトを出た。
地下は商業都市ラスラの地下水道につながっていて、出たところは街から少し離れたところだった。
ジェイはずっと無言で歩き、アイシェもその後に続いた。
かける言葉がなかった。

どうしてあの時、ひとりになったのだろう。
自分が捕まったりしなければ、こんな事にならなかった。
そう思うと悔いてならない。
申し訳なくて言葉が見つからない。
ジェイの事を話すセイラの幸せそうな笑顔が頭から離れない。
アイシェは溢れそうな涙を押し込めて、唇を強く噛み締めた。




しばらく歩くと海の見える小高い丘に出た。
ジェイは大きな樫の木の下に穴を掘り、そこへセイラを寝かせた。
胸の上でそっと手を組ませ、土をかけた。
木の枝で作った十字架を差し、アイシェが摘んできた花を飾る。


「…アイツは、ここから見える海がとても好きだったんだ」
ジェイがそっと呟いた。
「…海…」
ジェイの視線の先に目を向けると、その先には広大な海が広がっていた。
どこまでも青く永遠に続く海。
アイシェはこの時、初めて海を見た。
こんな時でなければ、初めてみる広大な海原に、感嘆の声を上げただろう。
けれど今はそんな気になれなかった。

「あの…ジェイ……」

声を掛けたが、返事は返ってこなかった。
地平線に夕日が沈んでもしばらく、ジェイはそこから離れなかった。



丘のふもとにある小さな小屋に灯りが燈った。
そこをジェイは生活の拠点としていた。
生活に必要な最低限のものだけを揃えた小さな小屋。
行くあてのないアイシェを連れて帰り、使っていない方の部屋を分け与えると、ジェイは部屋にこもってしまった。
アイシェは用意された湯浴み用の湯に布を浸し、汗や体の汚れを拭き取ると早々にベッドへもぐった。
いろいろな事がありすぎて気持ちが高ぶっているせいか、ちっとも眠くない。
けれど体は正直だ。
数々の術を使ったアイシェの体はボロボロだった。
すぐに睡魔が襲い、深い眠りについた。
これがすべて夢だといい…そう願いながら。




□ □ □




目が覚めるとジェイが何やらゴソゴソと支度をしているところだった。
「おはよう」
アイシェはその背中にそっと声を掛ける。
「はよ。…眠れたか?」
ジェイが顔を上げて少し笑った。
(…よかった)
笑った顔を見て、少し安心した。
「悪いんだけど、すぐ支度をしてくれるか?」
「支度って…?」
首をかしげる。
「あんたを村まで送って行ってやるよ。」




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