RS FANTASY

りくそらたのファンタジー小説おきば。
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触れたいけど、今は
ちっとも眠れやしない―――。



俺のすぐ側で。
すやすやとあどけない寝顔を浮かべて、完全に安心しきった吐息が零れる。
ある意味、相当神経が図太いぞ、この子は。
呆れながらも、そんな表情を見せてくれるのは自分にだけ。
そう思うと、胸の奥がざわざわと騒ぐ。

「眠っていいよ」
ベッドに彼女の小さな体を横たえて、そう告げた時。
見上げてきた翠の瞳が困惑の色を見せた。
いくらこの子が世間を知らないからと言って、夜更けに男の部屋に誘われる―――その意味が分からないほどバカじゃないだろう。
それでもNOと言わず、黙って部屋に入ってきた。
覚悟を決めて。


頬に張り付いた髪をそっと払い、一束を掬い上げる。
何の引っかかりのない真っ直ぐな髪が、サラサラと手のひらからこぼれ落ちた。
あどけない寝顔に手をすべらせて、彼女の頬を撫でる。
こうやって頬を撫でる手に促されるように、彼女は眠りに落ちた。
規則正しい吐息の零れる裸の唇は、ふっくらしていて子どもみたいなのに。
キスで濡れた唇は、理性なんて吹っ飛んでしまいそうなほど、艶めかしかった。
五つも下だなんて、子どもだと思っていたのに。
女は女だな。

しばらく彼女の寝顔には近づかないようにしろ、と。
自分の理性に言い聞かせて、立ち上がった。
けれど。
ぐっと、服の裾に引っかかるものを感じて、重心がベッドへと返される。視線を落としたら、ぎゅっとそれを握りしめた小さな手が見えた。
目が覚めたのか。
いや、彼女は完全に夢の中だ。
眠りに落ちてしまえば、ちょっとのことでは目の覚めない睡眠の深さは、俺もよく知ってる。


―――なんて可愛いマネを。



我慢しきれずに、その手に唇を押し当てた。
外であれだけ触れておいて、部屋に連れ込んで何もしないなんて。
今は抱かない、なんて。
いい人ぶるにもほどがある。
だけど、思うがままに抱いたりしたら、簡単に壊してしまいそうで。
体力尽きるまで、抱いてしまいそうで。
離せなくなってしまいそうな自分が、イヤだったんだ。



触れたい。触りたい。
押し倒して、素肌に触れて。
めちゃくちゃに抱きしめて、どこにも行けないように腕の中に閉じ込めて。
キスだけじゃ、足りない―――なんて。
衝動に負けそうになる。



髪を撫でて、指先で唇に触れて。
薄く開いた唇にそっと口付けると、彼女の体が小さく揺れた。
眠っている間に、全部盗んで。全部奪って。
そんな衝動に駆られそうになる自分が、歯痒くなる。

名残惜しく彼女を解放して、服の裾を握りしめた指をそっと外した。
左手の薬指には、銀の指輪。
彼女の運命を縛り付ける束縛の印。
絶対に外してやるから…。
そう心に誓って、そこにゆっくりとキスをした。
今は、これで我慢だ。




白く明けていく空と、さざ波の音。
穏やかな寝息に誘われて、彼女の隣で目を閉じた。
もうすぐ夜が、明ける。





END




*『LOVE PHANTOM 第3章  月のない夜』より。5話のおまけのはなし。

| サイドストーリー | 17:32 | comments(0) | - |
LOVE PAHNTOM第3章 月のない夜-5-
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第3章 月のない夜-5-

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