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りくそらたのファンタジー小説おきば。
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LOVE PAHNTOM第4章 帰郷-2-
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第4章 帰郷-2-

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小屋からしばらく歩いたところで、海岸に出た。
さらさらと零れる砂が足に纏わり付き、踏みしめるとキュッと鳴いた。
こういう音のする砂を“鳴き砂”というのだと、ジェイが教えてくれたのを思い出す。
ふと気がつくとジェイのことばかり考えてしまう。
側にいないと思うとなおさら会いたくなり、恋しくなる。
村から出るまで、ジェイと出会うまではこんな感情、一度も感じたことがなかったのに。
踏みしめるたびにキュッと声を上げる鳴き砂が、まるで自分の悲鳴のように聴こえた。
座り込んで膝を抱える。
「…ジェイ……」
声にすると涙が溢れた。
ジェイとはたった数ヶ月、一緒にいただけ。
なのにアイシェの中で存在は大きく膨らみ、いつの間にか無くてはならない存在になっていた。
こんな別れ方なんて、望んでいなかったのに―――。

「気は済んだか」
頭の上から声が降った。
アイシェはますます深く、膝の間に顔を埋める。
顔を上げなくとも側にいるのがリンカーンだということぐらいわかる。
気配を消したつもりだろうが、ラグナの芯までは消せない。
リンカーンに見張られているという自覚はあった。
絶えず彼のラグナを側に感じていたから。
アイシェが勝手にどこかへ行ってしまわないように、ずっと。


「…私、マオの港に行く」


「何、馬鹿な事を」
「だって、そこに向かっていたんだもの。だから私も行く。
きっと急にいなくなって、心配してるはずだから。ジェイは命の恩人なんだよ? 私、お礼も何も言ってないもの。せめて…船が無事着いたかどうかぐらい確かめさせて」
「どういう間柄かは知らないが向こうはもう、アイシェの事は諦めたはずだ。船の上で消息を絶ったんだ。海に落ちたか、波に攫われたか。無事であるはずがない。探しても無駄だ。普通ならそう考える。諦める」
「でも……!!」
「いい加減にしろ!」
強く押さえつけられて、アイシェはビクと体を震わせた。
威厳のある低い声色に、空気がジンと震えた。
「アイシェの意思は関係ない。引きずってでも村に連れて帰るぞ。お前と一緒でなければ、意味がないんだ」
強く両肩を捕まれた。
手から伝わって来る体温が、冷えた体にじわりと浸透していく。
アイシェは耐え切れなくなって、乱暴に視線を逸らした。
顔を背け目を伏せる。

「―――アイシェ」

両肩を掴んでいた手が顔に伸ばされ、頬を包み込んだ。
そのまま顔を上げられる。
「放して…!放して…ってば!!」
どんなに顔を背けても、リンカーンの強い力には敵わず、簡単に引き戻される。
それでもアイシェは抵抗したかった。
このままでは、本当にジェイとは会えなくなってしまう。
「俺の役目はお前を見つけることじゃない。見つけて、無事、連れ帰ることだ」
頑として信念を曲げない強い瞳が、アイシェの視線を捕らえ絡み取る。
本当はちゃんと分かってた。
リンカーンが心から心配してくれていることも、村に帰らなければならないことも。
だけど。

「…ダメ…。私、行けない。もう、村には、帰れない……」


アイシェはただ、首を横に振った。
ずっと村を出てから故郷に帰りたかった。
一度だって村や家族の事を考えない日なんてなかった。
だけど、もう…。

「ジェイという奴の為か? そいつがいるから、村に戻らないと言うのか? それとも…」
一拍置いて、リンカーンが聞いた。
「自分が帰ったら今度は村が狙われるって、危惧しているからか?」
弾かれたように顔を上げると、じっと深くアイシェを見据えるリンカーンの視線とぶつかった。
視線を逸らすことなく、ただ深く、心の奥まで見透かすような瞳で強く見つめ返してくる。
「…どうして、それを―――」
リンカーンは知っている。
狙われていることも、その理由さえも知っている風な表情だった。



「それぐらいは覚悟している。皆、最初から」
平然と告げる。
さも、そんなことはたいしたことではないとでも言うみたいに。
「…覚悟って…なに? ……最初からって…どういうこと…?」
「理由が知りたいか? それなら村に戻ってガラン殿に聞くといい。お前が知りたいと思っていることを全て話してくれる」
「おじいちゃんが…?」
戸惑いを隠せない表情でアイシェはリンカーンを見上げた。
嘘は言っていない―――。
リンカーンはそんな表情でじっと見据える。
アイシェがずっと知りたいと思っていたこと、不思議に思っていたこと、それが村に帰ればすべて分かるというのだ。
帰りたくない訳じゃない。
本当は全てを投げ出してでも、村に帰りたかった。

口を噤んで表情を落としてしまったアイシェの細腕が、グイと強く掴まれた。
「帰ろう。皆、心配している」
アイシェは唇を引き結んで、考えを振り切るかのように何度も首を振った。
まるで駄々をこねる子どもがイヤイヤをするように、乱暴に。
それがアイシェにできる精一杯の、最後の抵抗だった。
「帰郷するぞ」
低くそう告げると、座り込んでうずくまるアイシェの身体をリンカーンは軽々と抱き上げた。
逃がさないように強く抱きしめると、優しく髪を撫でてやる。
アイシェはそのままリンカーンの首にしがみついて、そして声を殺して泣き続けた。




>>To Be Continued


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| LOVE PAHNTOM 第4章 | 11:48 | comments(4) | - |
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