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りくそらたのファンタジー小説おきば。
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LOVE PAHNTOM第4章 帰郷-7-
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第4章 帰郷-7-

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朝食の食卓には懐かしい物が並んだ。
小麦に雑穀を練り込んで焼き上げたパンに、キノコのオムレツ。
蓮で包んで蒸した羊肉と色鮮やかな野菜。
蜂蜜をたっぷり使ったプディングに山羊のミルク。
どれも村で取れた新鮮なものばかりで、食べると懐かしい味がした。
「家族が揃うといつもの食事がより美味いのぉ」
運ばれた料理を美味しそうにほお張るアイシェの姿に目を細めながら、祖父ガランが満足そうに微笑んだ。
「たくさん食べてゆっくり休むといい」
「うん。でも…今日はラステルと約束してるの」
アイシェが嬉しそうに告げると、果物を盛った籠を手に台所から戻ってきたリンカーンが眉根を寄せた。
「今日でなくてもいいだろう」
「でも…ラステルと約束したから」
「体を休めることの方が先だ。まだ本調子じゃないんだ」
大きな手がアイシェの前髪をかき上げた。
体にはまだ熱が残っている。
「もう。子ども扱いしないで!」
その手をパンと跳ね除けた。
リンカーンは昔から過保護すぎる。
「ラステルだってアイシェが帰ってきたばかりで疲れていることぐらい、わかっているだろ。どうせ急ぐ用じゃないんだ。明日にしろ。それと―――キノコもちゃんと食べろよ」
アイシェの目の前に置かれた皿には、オムレツを食べる時にちまちまとより分けたきのこが隅に寄せられていた。
「子ども扱いするなっていうんなら、出されたものぐらいちゃんと食え。偏食するな」
「…リンカーンのバカ!」
罵声が聞こえたが聞こえぬフリをして、リンカーンはアイシェに家から出ないように釘を刺すと扉を固く閉めた。
「リンカーンって、ほんと頑固だわ」
昔から真面目で融通がきかない。
ここのところ輪をかけたようにそれがひどくなっている気がする。
「はっきりとした言葉にはせぬが、あいつなりにアイシェのことが心配なのじゃよ」
「…それはわかってる」
自分がとれだけ大事に育てられてきたか。
皆に守られ、何不自由のない生活をしてきたのか。
村から出てそれが初めて分かった。
けれど。
安らぎと居場所を与えられてもそれは自由の利かない籠の中。
一度、外の世界を知ってしまうと窮屈になる。
守られているだけでは物足りないというのは、贅沢な悩みなのだろう。
でも、誰かに何かをしてもらうのをじっと待っているだけでは、何も変わらないのだ。
自分は強くなりたいのに…。
不機嫌さを隠しきれず顔を歪ませた素直な孫娘に、ガランは苦笑を零した。
「あまり無茶はするでないぞ?」
そういい残し部屋を出て行った。
リンカーンは午後から村の若い衆に剣の稽古をつける為に、家を留守にする。
夕刻までに帰ってくれば見つかることもないだろう。
「早く行かなきゃ。約束の時間に間に合わなくなっちゃう」
アイシェはそっと部屋を抜け出した。








村の高台にあるアイシェの家から東の坂を下り、大きな樫の木のすぐ側にラステルの家はあった。
昔、よく訪れた木戸の扉を叩く。
数分もしないうちにラステルが顔を出した。
「遅くなってごめんね」
「平気なの?」
「…なにが?」
「アイシェはまだ調子が悪いからこられないって…たった今、リンカーンが来て…ちょ、アイシェ!?」
言い終わらないうちに勢いよく腕を引かれ、ラステルは部屋の中へ押し込まれた。
勢い余って前へつんのめりそうになる。
「───ラステル」
バタンと扉を閉めたタイミングで、よく知った低い声が聞こえた。
「今、アイシェの声がしなかったか?」
察しのいいリンカーンの質問にアイシェは物陰に隠れてブンブンと首を横に振る。
人差し指を唇に当て、゛自分はいないと言って゛と翡翠の瞳が懇願する。
「ははーん…なるほど。そういうわけか」
理由を素早く察したラステルは任せてと、軽くウインクを投げた後、アイシェを奥の台所へとかくまって部屋を出て行った。
扉の外でふたりの話し声が途切れ途切れに聞こえてくる。
勘もラグナの能力もずば抜けて高いリンカーンだ。
アイシェは気付かれないように息を潜め、ラグナの波長も最大限まで落として堪えた。
しばらくして何やら小さな物を手に、ラステルが戻ってきた。
「もう大丈夫よ」
「リンカーン、行っちゃった?」
「うん。これをアイシェに渡してくれって」
「……え?」
「午後から長老どのも家を留守にするからって、鍵、預かってきた。
抜け出してきたの、お見通しみたいよ?アイシェの微かなラグナを感じて、戻ってきたんだって。リンカーンの過保護っぷりはさすがねぇ〜」
「もぅ! 感心している場合じゃないってば!」
帰ってから何を言われるか…考えるだけでも恐ろしい。
アイシェは泣きそうになった。
「覚悟を決めなさいよ。もう見つかったんだから、腹をくくるしかないわね。それよりも…こっちに来て!」
家の一番奥の部屋の前で、ラステルが手招きをする。
「なあに?見せたいものって…」
「見てのお楽しみだって言ったでしょ。ほら、早く!」
「そんなにせかさないでよ」
「いいから来て来て!」
せかされるままに部屋を覗き込むと、まばゆい白が目に飛び込んできた。
天窓から差し込む陽の光に揺れて、部屋全体が白く輝いて見える。
その冴えた白の美しさに思わず息が零れた。
瞬きを忘れて見入ってしまう。
「凄く…綺麗…」
「でしょう?昨日、アイシェが帰って来た日に仕上がったの。ほら、もっと近くで見てよ!」
扉の前で直立していたアイシェの手を引いてラステルが部屋に促した。

たっぷりと布をあしらったレース。
胸の下の部分を紐でギュッと締め、躰の丸みを十分に引き出すようなデザイン。
肩は露で、袖は襞をたっぷりとった同様の布地が覆う。
イヤリングとネックレスはおそらく、このドレスの持ち主の瞳の色に合わせた湖のような深い藍。
村でしか咲かないイリスの巫女花から取れる極上の糸を紡いで編んだ純白のドレスがそこにあった。
シ・シュと呼ばれるこの村に伝わる伝統の花嫁衣裳だ。


「…ラステル、結婚するの?」
「バカね。あたしじゃないわよ。姉さんが結婚するの!」
「ミリアが?」
「昔からずっと想いを寄せていた人と、ようやく結ばれることになったの。素敵でしょう?」
「へぇ…」
「アイシェにも見てもらいたいってずっと言ってたから…姉さん、すごく喜ぶと思うな」
「…花嫁姿、きっとすごくキレイなんだろうな…」
その姿を頭に思い描いてアイシェは目を細めた。
ラステルよりも3つ年上になる姉のミリアは、村で一、二位を争うほどの美しい娘だ。
美しいばかりでなく、女性ながらも傑出した剣の使い手である。
才色兼備という言葉はミリアの為にあるようなものだと、昔よく、リンカーンに聞かされた。
男女を問わず彼女に憧れる若者は少なくない。

そのミリアが結婚するというのだ。
彼女のハートを射止めた男はさぞかし鼻が高いだろう。
シ・シュを身に纏い祝福された村の娘はとても綺麗で輝いて、誰よりも幸せそうだった。
今まで見てきた花嫁の中で、ミリアが一番綺麗で幸せに違いない。
その姿を想像すると、自然に笑みが零れた。



我を忘れてじっと見つめていると、すぐそばでラステルがニヤニヤと自分を覗き込んでいることに気付く。
「…何?」
不思議そうに尋ねると、ラステルがますますにやけた表情で顔を寄せた。
「アイシェ。村の外で何かあったでしょう? 素敵な出会いでもあった?」
覗き込んだ顔が嬉しそうに口角を上げた。
「今まで結婚なんてまるで興味がなさそうだったのに、部屋に入ってきた時の目の輝きようっていったらなかったわ。外で恋人でもできた?」
「そ、そんなんじゃないってば…!」
「白状しなさいよ。私とアイシェの仲で隠し事はなしよ?」
アイシェは大きく首を横に振った。
隠すつもりはないけれど、あらたまって話すのは何だか恥ずかしい。
自分のことをよく知っているラステルだからこそ、こそばがゆい。
「何もなかったわけないでしょ?だって、アイシェ雰囲気変わった。艶っぽくなったっていうか…綺麗になった! 絶対、何かあった顔!
行方が分からなかったふた月もの間、どうしてたの?誰といたの?男?女?」
瞳を爛々と輝かせて、ラステルが顔を近づけた。
「外の世界ってどんなだった?どんな恋の話があったの?」
「もう!いっぺんに聞かないでよ!」
「だって、早く話を聞きたくてうずうずしてたんだもん」
「ラステルは村の外に出たことあるでしょう?」
「数える程しかないよ。それに、いつだって姉さんが同伴だったから、羽目なんかはずせないもん!
ねぇ、外で何かあったんでしょ? もったいぶらずに話してよ!」
恋の話…と言われても、ラステルが期待するような淡く甘い話ではない。
切なく締めつけるような胸の内をどうやって話せばいいのだろう。
毎日が平和で穏やかな村の中で暮らしていると、ジェイと共に過ごした日々は全て夢だったのではないかと、錯覚しそうになる。
日が経てば尚更。
優しく撫でてくれる大きな手も、優しく触れた唇も、全てを包んでくれる大きな腕も。
ジェイにはもう二度と会えないのではないか…そう思うと苦しくて仕方がない。
目尻に涙が溜まるような気がして、誤魔化すようにアイシェは顔を伏せた。

「もしかしてその指輪も?」
不意にラステルが指に触れた。
ビクとアイシェの身体が跳ね上がる。
「ダメ…!」
咄嗟に背に隠したがもう遅い。
「ははーん。さては、好きな人にもらったんでしょう? 左の薬指だし…。人には見せたくないほど大事なものなんだ?」
ニヤニヤと嬉しそうに顔を寄せた。
「違うの、これは…」
何と説明すればいいのだろう。
話したことで、大事な親友を巻き込みたくはない。

「勿体ぶらずに見せなさいってば!」
「あ…っ!」
ラステルはアイシェの左手を乱暴に引っ張った。
勢い余って前へつんのめった身体をラステルが羽交い絞めにして押さえつけた。
「痛…っ…ラステル!」
抜け出そうと必死にもがくが、小柄なアイシェの力ではびくともしない。
ラステルは意外に馬鹿力なのだ。
「村では見たことのない鉱物が埋め込まれてる。紫水晶…にしては、色が深いよね? なんだろコレ…字が彫ってある。なんて読むの?」
興味津々で指輪を覗き込み、刻まれた文字に触れた。
その瞬間、ゾクリとアイシェの体に悪寒が走る。
「愛の言葉…だっりして…?」
何も知らないラステルは無邪気に笑う。
ラグナの弱い彼女は指輪を目の前にしても、何も感じないらしい。
「素敵ね…これ」
妖艶な輝きにうっとりと魅入られる。
ラステルが指輪を撫でるたびにツキンと頭が痛んで、身体をきつく締め付けるような気がした。
吐き気がして胸が苦しい。
その不快な感覚が堪らなくなって、アイシェは乱暴にラステルの手を振り払って指輪を隠した。
「どうして隠しちゃうの? 見せてってば!」
「…だめ」
「もったいぶらないでよ、ケチ!」
「だから…そんなんじゃないんだってば…」
駄目と言われればますます好奇心に火がつくラステルの性格をすっかり忘れていた。
こんなことなら、最初から素直に見せておけばよかった。
外の町で買ったとでも何とでも、適当に理由をつけて誤魔化せたのに…。
ラステルのしつこさにアイシェは苦い顔をした。
「隙あり!」
ラステルがアイシェの手首を掴み、無理に指輪を引き抜こうとした瞬間。
「痛…ッ!」
身体に電撃が走る。
今まで感じた事のない痺れるような痛みだ。
身体を突き抜けてその痛みは脳まで走る。
あまりの痛みに堪えられず、アイシェはその場にうずくまった。
「アイシェ? どうしたの?」
「…っう……」
体からラグナを抉り取られるような苦痛に、アイシェは顔を歪めた。
額に脂汗が浮ぶ。
動悸が激しくなって、息が途切れた。
「…アイシェ。顔、真っ青じゃない…」
「…っ…」
「あたし、そんなに強く引っ張ったかな…。ていうか、引っ張ったぐらいで、そんなにならないよね?」
「違…う、ラステルのせいじゃ…ないから…」
苦しい。酸素が欲しい。けれど身体がうまく動かない。
身体がまるで自分の物ではないみたいにいうことをきかない。
胸が痛い。気分が悪い。吐きそうだ。
「アイシェ、本当に大丈夫……?」
覗き込んだラステルの服を掴んだまま、ずるりと床に座り込んだ。
ひどい眩暈が襲い、意識を保つのがやっとだ。
「やばいって、アイシェ。普通じゃないって! あたし、人を呼んでくるから。待ってて!」
うずくまってしまったアイシェの体を何とか支えながらソファに横たえると、ラステルは人を呼びに家の外へ飛び出した。
アイシェは苦痛に顔を歪めながらソファに丸くうずくまる。
左の胸の膨らみ、ちょうど心臓の辺りがキュウッと抉るように締め付けられる。
焦がすような焼きつく痛みと、心臓を素手で鷲掴みにされたような激しい痛みが交互に波のように襲う。
激痛に神経がどうにかなってしまいそうだ。


「…なに、これ…ッ。痛…い…息、できな…っつ…」


浅く早い息を何度も繰り返しながら、アイシェは胸元を握りしめた。
固い鉱物が掌に確認でき、それを強く握りしめると幾分か痛みがマシに思えた。
それでも束の間。
まるで陣痛のように痛みの感覚が短くなり、痛みと激しさを増す。
「ふぅぁ…うっ…」
今にも途切れてしまいそうな意識の中で、目に映るシ・シュの冴えた白がやけに眩しくて瞳を閉じた。



そのままアイシェの意識は途切れた。









>>To Be Continued

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