RS FANTASY

りくそらたのファンタジー小説おきば。
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LOVE PAHNTOM第4章 帰郷-8-
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第4章 帰郷-8-

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アイシェが倒れたという知らせを聞きつけて、数分もしないうちにリンカーンが駆けつけた。
「だから言ったんだ。あれほど勝手に出歩くなと」
頭上から降ってくる声は怒りを帯び、そして苛立っていた。
リンカーンは何か言いたげに口を開きかけたが、すぐに閉ざした。
今、せめても仕方がない。
自分を落ち着かせるかのように、大きく息を吐くとアイシェの隣に膝を付いて、汗で頬に張り付いた髪を指で軽く払ってやってから、前髪をかき上げた。
ひどく熱い。
「小言は後でもいいでしょう? 身体を休める方が先よ。このままうちに寝かせる?」
知らせを聞いて同時に駆けつけたラステルの姉、ミリアが表情を曇らせ、アイシェの様子を伺った。
浅く早い息を何度も繰り返すアイシェの額には、玉のような汗がいくつも浮かび、顔色もひどく悪い。
「……いや。連れて帰るよ」
横たえられたソファの上で体を折り曲げるようにうずくまったアイシェをリンカーンは軽々と抱き上げた。
ふわと宙に浮く感覚に、ますます気分の悪さが増す。
身体の底から魂を吸い取られるような痛みが、波のように押し寄せてきて、アイシェは歯を食いしばりそれに耐えるようにリンカーンの服を握りしめた。
「私も一緒に行くわ」
「ああ。助かる」
「──────姉さん!」
部屋を出ようとした背中を強い声に呼び止められた。
「アイシェは…アイシェは治るの? まだ体力も回復していないのに、あたしが無理をさせたから…」
「平気よ。すぐに良くなるから」
「……本当?」
「ええ。ラステルが気に病むことじゃないから。また連絡するわ」
姉がそう言うならきっと大丈夫だ。
聖母のように穏やかな笑みに安堵しながら、ふたりがアイシェを守るように部屋を出て行くその後姿を、ラステルはそっと見送った。






家に戻るとガランは留守だった。
リンカーンはアイシェをベッドに横たえたあと、急いで部屋を暖め、煎じたばかりの薬を口に含ませ、衣服を緩めてから再び横たえた。
薬はミリアが煎じたものだ。
彼女は薬草学の心得があり、処置も処方も的確だ。
直接的な原因が分からなかったので、解熱効果のある薬草と、呼吸を楽にする安定剤のようなもの、眠剤効果のあるものを調合した。
いわば万能薬のような薬だ。
口に含ませてから数分、呼吸が穏やかになり、顔色もいくらか回復した。
汗で頬に張り付いた髪を払い、きつく絞った布で汗を拭ってやりながら、リンカーンは声だけを背後に向けた。
「──────ミリア。いつまでそこで見ている気だ?」
「あら。気付いてたの? さすがね」
ゆらりと影が動いて、扉の向こうから意味深な笑みを浮かべたミリアが顔を出す。
気配を消したつもりだろうが、ラグナの芯までは消せない。
「帰ったんじゃなかったのか?」
「可愛い妹君の身を案じて、見張っていたの。可愛さ余ってキスでもしそうな雰囲気だったから」
「……馬鹿を言うな」
「あら。バカはどっちかしら?」
ミリアは柔らかな黒髪を手で梳きながら、意味深な言葉をリンカーンに投げかけた。
「これ。薬。今飲ませたものと同じものを作っておいたから。もしものときに、飲ませてあげて。呼吸も落ち着いてきてるから、もう大丈夫だとは思うけれど……はっきりとした原因がわからないから、いつ急変してもおかしくないもの」
手にした小瓶をテーブルに置くと、ミリアはゆっくりとアイシェの枕元まで歩みを寄せ、そっと頬に手を伸ばした。
アイシェは艶やかな亜麻色の髪を首筋にまとわせて、穏やかに眠っている。
呼吸も顔色も先ほどくらべると、随分落ち着いたようだ。


「……リィン。これからどうするつもり?」
ミリアの問いかけに、リンカーンは眉をひそめた。
「どうする? 今までと何も変わりはしない」
ファントムは、外に出すものじゃない。
そして、彼女自身も。
「結界の強度を上げて、警備も」
「そうやってまた、籠の中に閉じ込めておくつもり?」
「……なに?」
「自由に外の世界を飛び回ることのできる翼を持っているのに、それをまた、あなたは奪うのね」
「……どういう意味だ」
「はたして村にいることがこの子にとって幸せなのかしら? かわいそうな子。あのまま村に戻ってこなければよかったのに──────」
「ミリア!」
ビン、と空気が振動した気がした。
リンカーンが発したラグナの強さに、ミリアは一瞬、身を震わせる。
射抜くような鋭い目で睨みつけられ、ゴクリと喉を鳴らした。
背筋が凍りつくような恐怖を感じながらも、その張り詰めた空気を打ち壊すように、ミリアが大きく息を吐いた。

「あなたは昔から変わらないわね。普段は冷静沈着で何事にも無関心なくせに、アイシェのことになると、周りが見えなくなるほど冷静さを失う。そんなに彼女が大事?」
「………あたりまえだろ。アイシェは」
「長の孫娘だからとか、石に関わってるからだからとか。そういう話をしてるんじゃないわ」
「………」
「そんな怖い顔で睨まないで。
わからないの? もう大事に閉じ込めているだけでは守れないってことが。あなたも聞いているのでしょう? 長老の仰ったとおり、やはり結界の向こうに異常な膨らみが感じられる。閉じ込めて守ってるつもりでも、ここを攻められたら終わりなのよ? あなただってそれぐらいわかってるくせに」
「ではどうしろというのだ?」
「もっと視野を広げるべきだわ。外にも目を向けるべきよ。木を隠すなら森の中っていうでしょ。限られた空間にかくまうより外の世界に出る方が、かえって安全じゃないのかしら」
「外の者など信用できん」
「あなたが思ってるほど悪くないわよ。事実、外の世界でアイシェは助けてもらったようだもの」
「………」
「アイシェ、外でかけがえのない経験をしてきたようね。兄として、幼なじみとして、妬ける?」
「得体の知れない人間だ。心配して当然だろ」
「本当にそれだけかしら?」
「………なにが言いたい」
ミリアは柔らかな黒髪を後ろへ流しながら、視線をアイシェに移したまま立ち上がる。
「自分の胸に聞いてみるといいわ。それはあなたが一番良く知ってることだから。
……じゃあ、私は戻るから。薬、目が覚めたら飲ませてあげて」
リンカーンの背に軽く笑いかけ、部屋を出ようとした。
と。
背後から声に呼び止められる。



「ミリア」
「なに?」
「お腹の子は順調か?」
「ええ……。最近、よく動くのよ。触ってみる?」
「いや。元気ならそれでいいんだ」
「………」
「じゃ」
「──────ねえ、リィン」
リンカーンの言葉に被せるように、今度はミリアが名を呼んで呼び止めた。



「………いいのよね? 私、あなたの子どもを産んで。今さら堕ろせなんて、あの子が戻ったからダメだなんて、そんなこと言わないわよね?」
「……言うわけないだろ」
「じゃあ、どうして」
顔を見て言ってくれないのだろう。抱きしめてくれないのだろう。
アイシェが戻ってきてからというもの、リンカーンの視線も言葉も心も、すべてが彼女に向けられたままだ。
現に今だって。
結婚を間近に控えた恋人がすぐそばにいるというのに、視線は穏やかに寝息を立てる少女に注がれたまま、こちらを見ようともしない。
「……なんだ?」
「いえ。なにも」
今さら、リンカーンの気持ちを確認したところでなにも変わりはしない。
ミリアは追求することを諦めて、深く息を吐いた。
「……身体、気をつけてくれよ」
「あなたも。あまり無理はしないで」




完全にラグナの気配がしなくなったのを確認してから、リンカーンは部屋の隅に置かれた椅子に崩れるように腰を降ろした。
顔の前で手を組み合わせ、深く息を吐く。
今度こそ本当に、ミリアは家を出て行ったようだった。
リンカーンは椅子に腰掛けたまま視線を泳がせて、アイシェの寝顔を見つめた。
眠剤がよく効いてるのか、苦しみから解放されたアイシェの寝息は、気が付けば穏やかなものに変わっていた。
規則正しい呼吸のリズムを耳に、自然に安堵の息が零れる。
再会した当初から、アイシェの体調はあまりよくなかった。
長旅の疲れ、初めて外の世界に触れた緊張感、そして彼女の指にはめられた得体の知れない指輪──────。
「……あの苦しみ方は病気や疲労の類じゃない。原因はおそらく、指輪か」
それが彼女の指で輝く限り、確実に彼女の体力を奪っていく。
早急に外す手立てを見つけなければ。
椅子から立ち上がったリンカーンは、静かに歩みを寄せ、アイシェが眠るベッドの淵に腰を降ろし、シーツの上に流れるように広がる髪のひと束をそっと手に取った。
亜麻色の髪は、窓から差し込む弱い月明かりの中でも美しく透けるように輝き、サラサラと手の中からこぼれ落ちる。
色白の肌が艶やかに月光を弾き、甘く輝く唇が誘うように目の前に。


──────そうやってまた、籠の中に閉じ込めておくつもり? 自由に外の世界を飛び回ることのできる翼を持っているのに、それをまた、あなたは奪うのね──────

この場所に閉じ込めてしなわなければ不安だった。
いつだって彼女の存在は危険と隣り合わせだったのに、そばに見えればそれだけで不安も吹き飛んだ。
無邪気な顔で笑いかけ、小鳥がさえずるような声で名を呼ぶ。
ただそれだけで……。
アイシェの頬に触れると、くすぐったそうに身をよじった。
彼女のすべてが愛おしくて、髪にも唇にも触れる。


──────閉じ込めて守ってるつもりでも、ここを攻められたら終わりなのよ。あなただってそれぐらいわかってるくせに──────

そんなことはわかってる。
もはやここが、安全ではなくなったことも。
内通者が存在する今、この村の中が一番危険だということも。
だからといって、二度と、アイシェを手放し、失うのは嫌だった。
マントの留め金をとめて、リンカーンはゆっくりと立ち上がる。
穏やかな寝息を立てて、アイシェはまだ眠っていた。
長いまつげが頬に影を落とす。
もしもいつか、アイシェがこの村を出るとしたら、自分はためらわない。
誰にも手は出させない。彼の心も体も、存在そのものが、リンカーンを動かす。
(君がどんなに望んでも──────どんな手を使っても、オレの手で)
いつか、ではない。
遠くない未来に、かならず時が来る。この村は安全ではなくなってしまった。
成果の出ない作戦は、いずれ変更を余儀なくされる。
何かを得るためには何かを捨てなければならない。
けれど。




「おやすみ、アイシェ。よい夢を」
 

どれも捨てるつもりはなかった。
彼女が戻ってきたからこそ、ぜんぶこの手の中にと、心に強く誓うのだった。
たとえそれが、なにかを犠牲にしてでも。







>>To Be Continued


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